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-side:??? Another -

間違って別な作品に投稿してしまいました(-_-;)

なお、主人公回の予定だったのですが、なぜかまたも別視点になってます。

 中央大陸(だった場所)北部に位置するコマールノ村は、オカタイナ高地にあるわずかばかりの平地にしがみ付くように存在する人口三十人ほどの年寄りばかりの寒村であった。


 これより北は魔王が支配する北大陸・魔王領(他国は『魔王国』など公的に認めていないため、魔族に占領された支配地域というスタンスである)であり、晴れた日には水平線の彼方にある暗黒山脈が一望できる人族が住む最北の地であるが、あまりに辺鄙(へんぴ)で何もない土地のため、魔族でさえも見向きもしないという……ある意味幸運かつ不憫(ふびん)な土地である。


 行商人も来ず、月に一度二日ほどかけて(ふもと)にある宿場町で買い出しをする程度で周辺とのかかわりも薄く、細々と山羊(やぎ)の放牧と買い手もいない瘦せた土地でも実る蕎麦(ソバ)を栽培し、ガレットにして食べることでどうにか日々をやり繰りしている廃村間際の超限界集落である――であったのだが、ある日突如として天と地が崩壊したかのような轟音とともに発生した天変地異によって、気が付けば世界はすっかり様変わりしていた……らしい。


 何しろ年寄りばかりで外部からの情報も遮断されている狭い村である。


 確認できた範囲でわかったことと言えば、天地がひっくり返ったような地震・雷・暴風雨……そして目まぐるしく変わる空の色と、二つあった月の片方が粉々に砕け散り、いままでであれば年に一度か二度程度しか伺い見えなかった北大陸(魔王領)が、晴天(ピーカン)の下、視界が開けたところであればどこからでも見渡せるようになったこと。そして蒼々とした大海に北大陸(魔王領)の大部分が沈んで、暗黒大陸の上部など極一部しか残っていないようにしか見えないという、正気を疑うような光景が広がっているということであった。


 ついで身近な変化では、魔術を(村に数人いた生活魔術の使い手がどうやってもウンともスンとも)使えなくなったこと、ついでに山羊を襲うゴブリンやコボルト、豺狼などの魔物がすっかり姿を消したという、良いのか悪いのか微妙な変化であるが、単に巣穴にこもって警戒しているだけな可能性もあるので、このあたりはまだ要検証であろう。


 ともあれこれ以上の情報は村にいては判断できないと判断した一部の者たち――。

 足腰に自信のある猟師のダニエル爺さんと、村の中では若手(45歳)ということで普段から買い出しに従事しているハロルドと飼っているジャイアントラビット(ペット兼食料)のピーター。

 そしてどんな道楽なのか、一月ほど前から『勇者様の状況確認』の名目で村長宅の離れに泊まり込んで、魔王領の監視をしていた騎士――自称領主の四男で庶子に当たるという――小柄な体に古臭い金属鎧(プレートアーマー)を着た……と言うか着られた感のある仰々しい支度にひと振りのサーベル、そして普段から顔をすっぽりと隠した時代物のバケツ(バケット)型のグレイト・ヘルムを被った(明らかに変人だが、仮にも貴族の血縁者であるため村の年寄りたちはあえて触れないようにしている)三人と一羽とが、天候が回復したのを契機に山を下りて、普段買い出しに行く宿場町へ情報確認を兼ねた買い出しへと向かうことになった。


 普段なら慣れた山道ではあったが、倒木だの山崩れだので倍以上の時間がかかり、半日かけて通常の半分ほどの行程を下り、倒木に腰かけて携帯食料の干し肉を齧りつつ(ちなみに年を取って潰した山羊の肉である。魔物は死ぬと《魔核》を残して黒い霧のように消えるので食べることはできない)今後の予定について膝を突き合わせて相談し合う三人。


 というか、ここまで来た段階で途方に暮れているというのが実情であった。

 何しろ足元には満々と水を湛えた渚がどこまでも続いていて、見渡す限り明らかに海・海・海――磯臭くて舐めてみると塩辛い海水が白波を立てて行き来しているのだ。

 水際には山盛りになった家の残骸や日常品の漂流物が山になっていて、ついでにどこからか流れ着いた難破船やひっくり返ったボートなどが無数に堆積している。


 これ以上近づくと猛烈な腐敗臭がすることから、動物や魚、そして考えたくはないが膨大な土左衛門(水死体)が海岸線に流れ着いている可能性が(非常に)高い。


 これも十日前の天変地異の影響だろうか。いずれにしてもこの調子では麓にあった宿場町も、二月ほど前に勇者様一行が船団を組んで旅立った中央大陸最北端の城塞港湾都市オナラスカも、もはや海の藻屑と化していることだろう。


((……さて、どうしたものか……))

 ハッキリ言って生まれも育ちもコマールノ村であるふたりにとっては、世界は村とその近辺だけなので、村さえ無事なら世界が変貌しようと終わろうとも――すでに村はカウントダウン状態だっただけに、いまさらメーターが振り切れても――大して衝撃はない。


 まあハロルドが密かに入れあげていた愛嬌のある酒場の姉ちゃんや、気のある素振り(ビジネススマイル)を見せていた薬屋の未亡人の消息が途絶えたのは残念であるが、何となく手玉に取られていた自覚があるだけに、未練はあるが吹っ切れた……というのが偽ざる気持ちであった。


 だが、魔王領へ渡った勇者一行の現状を把握するという名目で村に詰めている領主の四男坊としては、目の前のこれは看過できる状況ではないだろう。

 何かしら無茶を言い出すのではないかと戦々恐々としながら、目元以外唯一開閉するグレイト・ヘルムの口元を開けて硬い干し肉を苦労しながら咀嚼(そしゃく)している少年騎士と、ついでにその辺の草を食って、人差し指と親指とで作った丸くらいの大きさの(フン)をポロポロしているピーター(ウサギ)を窺うダニエル爺さんとハロルドのふたり。


 お互いに『お前が言え』『年の功で爺さんが話しかけろよ』と、お互いに視線で押し付け合いをしていたふたりだが、刹那、ピーターが耳をピンと立て、警戒心もあらわに食事を切り上げた。


 と、同時に木立の間からヒョロヒョロ~~と、飛んできた矢が明後日の方向へ流れて行った。

「……あ……?」

「ヘタクソだな。おおかたスキルに頼って、まともに練習してこなかったんだろう」

 唖然とするハロルドと、憮然とした表情で苦々しく吐き捨てるダニエル爺さん。

 硬い干し肉に悪戦苦闘している少年騎士は、矢が飛んできたことすら気づいていなかった。


 ともあれ咄嗟にふたりが矢が放たれた場所に視線を向けると、藪を掻き分けるようにして毛皮を着て、血脂が付いたままろくすっぽ手入れしていない刃物を持った人相の悪い男たちが、

「「「ひゃっほ~~っ!! ――なんだ、野郎ばっかりか。しょうがねえ、金と食い物と身ぐるみと……面倒臭えから命も全部おいて行けや!」」」

 現われるや否や鼻息荒く、下卑た笑みを浮かべながら言い放つ。

 ちなみに全員が下半身ほぼ剥き出しで、毛脛剥き出しのブランブラン状態であった。


「うぎゃっ、凶賊フルモンティ(フルチン)団だっ!!」

 その身なりを見て驚愕の声を上げるダニエル爺さん。

 凶賊フルモンティ(フルチン)団。強姦王(前科165犯)セルゲイ・フルチンを首魁とした悪名高い盗賊団であり、物欲よりも性欲を優先して婦女暴行・誘拐を率先して行い――金を盗んだり物資を略奪するのはそのついで――魔王軍が健在だった時には、オークやゴブリンによって襲われた集落やキャラバンの危機に横入して、魔物を蹴散らし攫われかけていた女性たちを救助して(ちなみに魔物が人間に種付けをしても基本的に苗床にするだけで生まれてくるのは100%魔物)そのままお持ち帰りしたという武勇伝もあるという、ある意味気骨のある健全な(?)犯罪者集団である。


 噂ではオカタイナ高地のヤリキレナイ森林部のそこかしこに拠点を置き、オカタイナ湖から流れるボイン川とチンコ川を利用して神出鬼没の活動をしているとのことであったが、どうやら拠点に閉じこもっていたことで、今回の天変地異に巻き込まれずに生き延びたらしい。

『憎まれっ子世に(はばか)る』とはまさにこのことである。

 だがさすがに憔悴の色は濃く、本来の筋を曲げて食料と物資を強奪しようとしていることからも、相当に切羽詰まっているのがわかるというものであった。


「あわわわわっ、き、騎士様、お、お助け下さい!」

 泡を食ったハロルドが、ようやく事態を理解してギクシャクした仕草で立ち上がった少年騎士の後ろに隠れる。

 もっとも平均的な背丈のハロルドよりも小柄で華奢な少年――鎧兜を着ていても肩の高さが拳ひとつくらい低い――を前面に押し立てている姿は、どう見ても無理やり矢面に立たせて盾にしているようにしか見えなかった。


「ちょ、ちょっ……無理です、無理っ! ボクは武官じゃなくて本来文官なので、戦闘系スキルは何も持ってないんですよ!」

 ジタバタと暴れる少年騎士。そのグレイト・ヘルムの中から甲高い女の子のようなボーイソプラノの悲鳴があがる。

「スキルなんてもう使えないっしょ? だったら雑魚盗賊の素人剣よりも、鍛えられた騎士様の剣術の方が絶対に有利ですよ。そんなこって頼みます、騎士様――GO!」


 ハロルドは一方的にそう決めつけて、一目散に逃げようと踵を返しかけた少年騎士を背後から力任せに突き飛ばす。

「きゃあああああああああああ~~~~っ!!?」

 女の子のような悲鳴を上げながら、つんのめるようにして盗賊団の前へとたたらを踏みながら突っ込んで行く少年騎士。


 ド素人以下のその醜態に白けた視線を向けていた盗賊たち。一番先頭にいた長剣を持った男が、隙だらけの少年騎士の顔面目掛けて蹴りを放った。

「ほれ」

 カーンと景気のいい音を立ててバケツ(バケット)型のグレイト・ヘルムが飛ばされて、隠れていたその素顔が明らかになる。


「きゃっ――!!」

 と、どうにかその場に止まった――衝撃で棒立ちになった――騎士の(あらわ)になったその正体は、長い金髪を三つ編みにした息をするのも忘れるほど美しい、どこからどう見ても十代半ばほどの美少女でしかなかった。


「「「「「女っっっ!!!」」」」」

 ハロルドを含めた盗賊たちの驚愕の声が唱和する。

(わし)はそうではないかと睨んでおった」

 結果が出てから『俺は最初から見当をつけていた』と訳知り顔をするダニエル爺さんのドヤ顔に、内心でモヤっとするハロルド。


「ヒャッホーッ! 女だぜ、女っ!」

「それも極上の美少女ときた!」

「けけけけけけっ、大当たりだったな。禁欲生活が続き過ぎて抑えの利かなくなったお頭たち()、この際婆さんでもいいから()ってくる――ってコマールノ村へ襲撃かけに行ったが、貧乏くじ引かせられた俺たちの方が大当たりとは(たあ)ツイてるぜ、やっぱ日頃の行いがいいからだな~」

 興奮した盗賊団の三下どもが、途端に目の色を変えて美少女(?)騎士を取り囲んで襲い掛かる。

 すでに三人の下半身も戦闘状態で高ぶっていた。


「えええっ!?! ち、違いま……ボ、ボクはこう――ひえええええええええっ!!?」

 反論の隙を与えずに無理やり武骨な金属鎧(プレートアーマー)を脱がせようとする盗賊たち。


 一方、こうしている間にも自分たちの村が性獣と化した盗賊団の本隊に襲われているのを知ったダニエル爺さんは、顔色を変えて身を翻すと村へと戻る道を一目散に駆け上がるのだった。

「いかんっ! このままでは婆さんが連中の毒牙に――!!」

 愛の逃避行である。


「あ、こら待てジジイ!」

 盗賊のひとりが気が付いて短弓に矢をつがえて放つが、まるっきりの見当違いの方向へと飛んで行くばかりである。

 慌ててハロルドも一緒になって逃げる気配を感じたところで、ダニエル爺さんが肩越しに振り返りながら一喝した。

「馬鹿者っ! ここで男を見せんでどうする! こんな世界になった以上、この機会を逃したら二度と嫁などもらえんぞ! お嬢ちゃんを助けて所帯を持つのじゃ!! これが嫁を手に入れられる最後のチャンスじゃ! 己の力で嫁を手に入れるのじゃ!!!」


 その言葉に雷に打たれたかのように棒立ちになるハロルド。

「嫁……俺の嫁……若くて美人なおぼこ娘の嫁……」

 その脳裏にこれまでの苦難と屈辱の黒歴史が蘇る。

 もはや嫁取りなど不可能だと諦めかけていたが、いまは非常時である。本来であれば到底手が届かない貴族の娘を、なんやかんやと既成事実を設けて嫁にしてしまっても誰からも文句は言われないだろう。

 と、なればやることはただ一つ――。


「うおおおおおおおおおおおっ!! 俺の嫁に手を出すなーーーーーっっっ!!!」

 修羅と化したハロルドが愛用の(なた)を手に、金属鎧(プレートアーマー)を外そうと苦心している盗賊のひとりに襲い掛かった。


「うわっ、なんだこの頭のオカシイオヤジは!?」

 ギリギリ手斧で受け止める盗賊。

「待ちやがれ、ジジイ! この、この……なんで当たんねーんだ、このクソ弓!?」

 もうひとりの盗賊は、口八丁で仲間をその場に残して、尻に帆掛けてすたこらサッサとトンズラしようとするダニエル爺さんに向かって悪態をつきながら、手持ちのへっぽこ矢を射かけるのに夢中である。


「ツイてるぜ。ぐへへへっ! 俺とふたりきりで(たの)しもうぜ、お嬢ちゃん♪」

 ひとり残って羽交い絞めにしていた盗賊が、生臭い息を吐きながら必死に顔を背ける少女騎士(?)へと迫るのだった。


「だから違ってて、ボクはこう見えてもオトコです!」

 それを涙目で否定する少女の言葉を一笑に付す。

「ぎゃはははははっ! 嘘をついて騙そうとしても無理があるぜ。どっからどう見ても女だろうが――ほれ!」

 非力な抵抗を片手で押さえつつ、もう片手を股間にやって無防備なズボンの上からそこをまさぐる。


 ――ぐに~ぃ。


「……はぁ?! ツ、ツイてるぅ――!?!」

 少女にはないはずの感触を確実に感じて、呆然となった盗賊の間抜け顔と(´・ω・`)となる一物(エテキチ)であったが、次の瞬間、猛烈なハイキックによって吹き飛ばされた。

「グハーーーッ!!」


「ピ、ピーター!?」

 突如拘束が外れたことで、その場にへたり込んだ美少年?(男の娘?)騎士の目の前で、闘いのステップを踏んでいたのは、10歳児ほどもあるジャイアントラビットのピーターである。


「なんだこのウサギは!? 野郎、よくもノービタをやってくれたな!」

 仲間がやられたことで、ダニエル爺さんへの追撃を諦めた盗賊その2が、弓を捨てて槍を持ってピーターへと矛先を向けた(なお盗賊その3は現在ハロルドと鍔迫り合い中である)。

「喰らえ、スキル《三連撃》!」


 連撃と言うにはお粗末な槍が繰り出され――どうやらスキルや魔術が使えるか使えないかといった検証もしていないらしい――余裕で躱したピーターのかかと落としが、逆に盗賊その2の脳天を直撃して、一撃で昏倒させる。


「……ウサギに助けられる騎士(ボク)って……」

 微妙にやるせない表情で女の子座りしながら自問する美少年の元へ、外れたグレイト・ヘルムを咥えてきて渡すピーター。

「あ、ありがとう?」


 両手でしっかり受け取ったのを確認したピーターは、やにわ少年にお尻を向けて、

「???」

 状況がつかめず首を傾げる彼を思いっきり両脚で蹴とばした。


「ぎゃあああああああああああああああああああーーーーっ!?!?」

 まったくの不意打ちに抵抗することもできず、斜面をグルグルと転がって水際(みぎわ)でジャンプ!

 プカプカ浮いていた10人乗りくらいの無人舟へと飛び込み、その衝撃で船は岸辺を離れて……さらには離岸流に乗って中央大陸を徐々に離れていく。


 ついでに浮かんでいた瓦礫を八艘飛びよろしく足場にして、遅れてピーターもその舟に乗った。

 舟の中央では、様々なショックで目玉を渦巻き状にグルグル回し、気絶している男の娘騎士がひとり。


 その様子を確認したピーターの視線が、離れていく……いまだに嫁と美少女の貞操を求めて暑っ苦しいリビドーをぶつけ合う独身男と強姦魔との不毛な戦いが繰り広げられている中央大陸の成れの果てから、逆にどんどんと近づいてくる元北大陸魔王領へと向かうのだった。

作中に出てくる人名や地名などは地球に実在するものですが、この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

次回は間違いなく本筋です(;^_^A

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