悪魔の子②
この村の人口は100人ほどで現在その約7割がこの村唯一の教会に集まっている。
高さ約15メートルの立派な教会の外壁は真っ白の塗料が使われており、その大きさも相まってこの村には不釣り合いなほどの荘厳さを醸し出している。
やっぱりいつ見ても立派な建物だ。
中に入るとすぐに後光が差し込んだ巨大な創造神アシュラー様の御神像に視界を奪われる。後光が差し込む場所はマジョーラガラス(光の当たる角度によって色合いが変化する特殊加工されたガラス)が使われている。
参拝者が座る長椅子は職人が丹精込めて作ったとわかるような木彫りの装飾に白塗装がされている。これらが相まってより一層教会への畏怖の念を抱く。
いよいよ、スキルが与えられる時間となった。
司教が祭壇に立ち、今年十歳を迎える子供たちが祭壇で祈りを数十秒捧げるとスキルを獲得できる。
獲得したスキルは祭壇上にある透明なプレートに表示され、有能なスキルが出たときに教会に勧誘される仕組みになっている。
ついに、僕の番がやってきた。
不安、期待いろんな思いが混ざり合い緊張しながら祭壇の前に立つ。
司教様から簡単な祝辞を頂き祭壇で祈りを捧げる。
しかし、数十秒たっても獲得できない。
一分…二分……
しかし、いくら待てどもプレートに表示はされない。
周囲も流石におかしいと感じ始めたのか司教はたまたま村に訪れていた司祭を呼び出しに行き、村人たちはざわつき始める。
(お願いします、お願いします、僕にスキルをください。神様、お願いします。
)
床に膝をつき僕はすがるように神様に懇願した。
…三分…四分……
突然肩をたたかれ後ろを振り向くと、司教様が司祭様を連れて戻ってきていた。
司祭様にほかの人たちもお祈りを捧げるから、夜にまた来なさいと言われ、重い足取りで両親と一緒に家に帰った。
帰り道お父さんとお母さんは何も喋りかけてくれなかった。
僕は期待を裏切ってしまったのだろうか
お父さんとお母さんに迷惑をかけてしまったときはいつも明るく「大丈夫だよ。次は、気を付けるようにしようね」と優しい言葉をかけてくれるのに…
僕はいらない子として捨てられてしまうのだろうか…
父と母。
友達がおらず村の人たちにはいじめられるケリーにとって最大の理解者であり安心できる最後の拠り所、そんな二人が自分を捨てる。
そう考えてしまうと不安で胸が張り裂けそうになり、二人にしがみつき泣き叫んでいた。
「僕をすてないで!!なんでもするから、まきわりも水くみも畑仕事も嫌なことでも文句を言わずにやるから、だから…だから……どうか、僕をすてないで…」
ケリーに突然そんなことを言われた二人は驚き、そこで初めて自分たちがケリーに何も言わずに考え込んでいたことに気がつき、ケリーを優しく抱擁し、頭を撫でながら語り掛ける。
「大丈夫よ…大丈夫。お母さんとお父さんがあなたのことを捨てるはずないじゃない」
「そうだぞ。母さんの言う通りだぞ、お前はたった一人の大切な息子だ。それなのに……ごめんな。今まで気づいてやれなくて」
村人に会うたびに嫌な視線にさらされ、子供達にはいじめられて、それでも気丈に振舞っていたが、10歳の少年にとっては心の奥底でしこりとなり溜まっていたのだろう。
母と父のやさしい言葉を聞き、今まで溜まっていたものを吐き出すように号泣した。
気持ちを吐き出せてスッキリしたのだろう。
安らかな寝息を立てて寝ている息子のそばでアシュリーとロスは厳しい顔をしながら話をしていた。
「やっぱり、あなたもそう思う?」
不安げな表情で問うアシュリーにロスは厳しい顔つきで頷く。
「ああ、教会が夜に呼び出すなんてそうそうない。別に明日の昼間でもいいはずなのにな」
幾万年にもわたって大地を照らし恵みをもたらしてきた太陽——自然とともに生きる人々にとっては古来より神聖視されてきた。正教会においても太陽は人々に繁栄をもたらすものとして崇められている。
このようなことから、太陽が出ていない時間帯に教会に赴くのは忌避すべきことと一般的に知られていた。
「じゃあ、あの噂は本当なのかな?」
「それしか考えられねぇ、クソ、どうしてケリーが…」
行商人として長年生活をしていたアシュリーとロスはあちこちを訪れ様々なことを耳にする機会があり、様々な噂を知っていた。
そんななかには教会に夜連れていかれたものは帰ってこないという。