前世の因縁
悲しみ、苦しみ
不幸に不運
あなたが被っている、その艱難辛苦
もしか
前世の因縁を引きずっておりませんか?
ほとほとお困りのようでしたら
その因縁、きっぱりと断ってご覧にいれましょう
いえいえ、お代はいりません
ただ
少々
あなた様の行く末を覗き見させていただけたのなら
それで充分でございます
そう、その人は言った。
なんとも変哲のない人だった。
普通の体格の、普通の顔立ちの、普通の声の、人。
場末の喫茶店だった。
ふ、と思う。
どうしてこんな所にいるんだろう?
「如何なさいますか?」
問われて、わたしは姉のことを思った。
わたしはつくづく姉に嫌われていた。
物心つく前から小突かれはたかれ、幼児期には散々にイジメられた。
中学生になると手をあげられることは減ったけれど、代わりに無視をされるようになっていた。
どうしたら関係を改善できるんだろう?
ほとほと困り切っていた。
「おねがいできますか?」
わたしは藁にもすがる思いでお願いした。
広大な草原を馬で疾駆し、羊を養う部族の長の娘だった。
彼女が10歳の時だ。
2つ上の姉が嫁ぐことになった。
相手は狼のように剽悍な青年だった。
出自も良く、おおきな部族の跡取りでもあった。
彼女たちは家族で喜んだ。
しかし。
姉は死んだ。
暴走した馬から落ちて死んでしまった。
彼女は亡くなった姉の代わりに、その剽悍な青年のもとへと嫁ぐことになった。
ほどくほどくほどく
絡み合った思念を
おとすおとすおとす
絡み合った思念を
わたしは姉と仲直りをした。
今では服だろうとアクセサリーだろうと、姉はほいほい貸してくれる。
きっとこれまでのことを申し訳なく思っているのだろう。
やがて姉は高校を卒業すると、会社員となった。
わたしはといえば、それからしばらくして大学に行くようになった。
相変わらず、わたしと姉の仲は良かった。
金欠のわたしは姉の私物を借りては合コンに出かけ、家に帰るのもおっくうになった末に、姉の家に上がり込んで、なし崩しで同居するようにもなっていた。
ある日のことだ。
姉が彼氏を紹介してきた。
テレビに出てもおかしくないようなイケメンだった。
聞けば、わたしでも知っている会社の御曹司でもあった。
いいなぁ、と思った。
欲しいなぁ、と思った。
服やアクセサリーみたいに、貸してくれないかな?
ううん。
もう服もアクセサリーも貸してくれなんて言わないから。
その代わりに、彼のことわたしにくれないかな?
もっとも、そんなことお願いしてもさすがに無理だろう。
なので、わたしは考えた。
考えて、いいことを思いついた。
そうだ。
姉を殺してしまおう。
事故に見せかけて殺してしまおう。
そうして悲嘆にくれるだろう彼を慰めて、わたしが姉の代わりになるのだ。
わたしは姉をドライブに誘うことにした。