謝罪された件
「この度は我が姉、ウィステルが大変ご迷惑をおかけいたしました。何卒私の力の及ぶ範囲での賠償に留めていただきたく」
ノーチェ王国の王太子、アーノルド・クロノリア・ノーチェはそう言って頭を下げた。なんだかとても疲れている感じなのが心配である。
「わたくしは夫とルーシー様、ここにいる使用人の皆様のおかげで無傷ですわ。家を直して欲しくはありますけれど、それ以上は求めません」
正直、慰謝料死ぬほど求めたりしたら聖女のイメージ下がると思う。まぁ、私個人としては下がったっていいんだけど、子供たちが「強欲聖女の子よ」ってヒソヒソされるのは嫌なので清廉を装っておく。ちなみに貰えるもんは貰う主義なので、やっぱり家の修繕費はもらうけれど。
「ありがとうございます。ですが……お困りの事がありましたらどうぞ私の名をお使いください。きっと、いつかこの御恩はお返し致しましょう」
そう言って頭を下げる彼はホッとした様子だった。メーティスは隣で「甘すぎはしないかい?」と言ってくるけれど、なんというか。
「ウィステル様には大変迷惑致しましたが、アーノルド殿下には何をされたわけでもありませんわ。同じく被害者側と言っても過言ではないでしょう」
メーティスの両親もそこそこクソだし。
そう思いながら苦笑する。
家族がアレだと苦労しますね、としか言いようがなかったりする。
「そう言って頂けると正直ホッとします。各地で謝罪行脚をしてようやくなんとかなると思った頃に脱走されてしまいまして……」
仕事がさらに増えてしまったらしい。まだ顔が青い。手を出してもらって魔力を流すと、顔色が少し良くなった。
「お忙しいのは仕方がありませんけれど、どうか御身も大事になさってくださいませね」
いやマジでアレが再度、野に放たれたら流石の私もその場でサクッとヤってしまう可能性が否定できない。がんばれ。超頑張ってアーノルド殿下。
「ありがとうございます。聖女ノエル。この身に代えましても我が姉は責任を持って今後二度と御身の前には現れぬように致しますので」
その瞳が炎のように光を持つ。
そんなに力一杯誓ってもらうほどのことはしてないのだけれど。
そんなことを思いながら会談を終えて一週間後。
ウィステル殿下は貴賓牢とかいうのであっさり病死してしまったのだとか。後を追うようにエスタシオンは喉を掻き切ったらしい。なにそれ怖い。
……ところで、貴族の病死ってガチの病死と杯を賜っての病死があるのだけど今回どっちかなぁ、と少し考えてしまった。
私は別に死までは望んでなかったから多分女神パワー発揮されてないし前者かなって思うんだけど。
バリバリの後者である。
ノエルは死を望んでなくても、弟くんはウィステルの暴走とまた何かやらかすということが予想できたので無理やり毒を飲ませた。
その後、愛する姫様の死体を見せられたエスタシオンはマジで喉を掻き切って自殺した。武器等与えたわけではなかったのでアーノルドは「何コイツ、怖い」と思いながら、二人の遺体を母国に連れ帰り埋葬した。




