お祭りの儀式を頼まれた件
「収穫祭、ですか?」
「そうだ。そのメインイベントで女神テティシアへの感謝の祈りを捧げる儀が行われるんだ。それを聖女殿に頼みたい」
ラティスフォード殿下に頼まれている収穫祭とやらは、一年の自然の恵と健康を女神様に感謝するお祝いなのだそうだ。なんか、神様と豊穣というのは切り離せないものなのかしら?でも、私もその恩恵を受けているので参加すること自体はいいのだけれど、目立つのちょっと嫌だなぁ。
せっかくのお祭りだけど子供も小さいし。
「最後の一日、儀式の一つだけなのだが、無理か?」
「拘束時間はどれくらいになるでしょうか?長時間目を離すのは少し不安で……」
見てたらまじで死因の上位が事故死だっていうのに納得するわ。子供の動きを舐めてはいけない。人間は思ったより死なないと聞くけど、逆に思ったよりあっさりと死ぬ場合もあるということを忘れてはいけない。
「その辺りはメーティスも立ち入れるようにするとか、祭壇以外では御子も一緒にいてもらって構わないようにするなどで調整させて欲しい」
メーティスを見ると、苦笑しながら頷いた。皇族からの頼みだし受けた方が良いものっぽい。
「分かりました。特別なことは何もないのですね?向こうについていきなりなんらかのマナーがあると知らされたりはしませんか?」
「君はガラテア王国で大司教殿より祈りの儀式の指導を受けたのだろう?」
「はい」
「その通りにやってくれれば良い」
それならば平気か、と考えて頷いた。
一応聖女なので時々復習しているし、祈りだけは毎日女神様に捧げている。なんだか、その方が良いかなっていう感じでやっていた。時々、例の「気がつけばメーティスが持っていた女神像」が金色の光を纏っているように見えるので多分喜んでいる。隣でリーリアもお祈りのポーズをしていることがあって可愛い。もしかしてランティスもそのうち始めるのだろうか?可愛い。
あれ、でも去年は頼まれなかったなぁとか思っていると、察したのか「進んで妊婦を働かせるほど私は非道ではないつもりだが」と言う。そういえば、めちゃくちゃキツい妊娠期間だった。息子は可愛いし兄弟いてもいいけど、今度は絶対もっと楽であって欲しい。
「ところで、メーティス。この間作っていた部屋用暖炉を王家でいくつか購入したいのだが」
「執務室につけたのも経費で落ちるか?」
「落とす」
「じゃあ、いいよ」と告げるとラティスフォード殿下はガッツポーズを決めた。そして、そういうのが得意な家に量産体制を取ってもらうことになるらしい。少量ならともかくとして、材料なんかの問題もあるので安定して作れる魔道具はレシピを販売して作ってもらう形を取っているらしい。そして、問題が起こった際には責任を取らせるんだって。もちろん、特許権のお金なんかはメーティスに入ってくる。
長い目で見ると、すごくお金を運んできてくれる夫なのでは……?特にそれ目当てで結婚したわけではないけど。
ラティスフォード殿下が帰った後に、「ところでノエルは欲しいものってないの?」と聞かれたので、そういえば毎回インクをつけて書状書くのが面倒なので、ボールペンみたいなのがあると便利だなぁ、と漏らしたところ、メーティスじゃなくてサフィールがメモを取っていた。
「インクの入ったペンは持ち歩きに便利そうですね。我が家でも噛ませていただいて構いませんか?」
目が爛々と輝いていた。




