世代交代は鮮やかに
酷い有様だ。
王のやってきた事の利益を受けて、この世の全てを笑っていた男はそう思いながら閑散とした葬儀場を眺めた。
一国の王が死んだというのに、盛大に弔うことなどせず、寧ろ死が故に民への食料の配布などが行われている。
指揮を取る神官の一人は男の死んだ前妻と同じ朱い髪をしていた。ふとその神官が振り返ると碧眼が男を映した。
「アイザック……?」
男は死んだであろう息子の名を口に出す。
だが、黒瘴石のせいで身体を蝕まれているはずの青年があのように五体満足で、健康そうに生きているわけはない。そう考えたフォリア公爵は他人の空似だと信じて棺に向かった。
実際にそこにいたのは彼の息子だった青年だ。聖女のおかげですっかり健康体になった彼は請われてこのガラテア王国に来ていた。ガラテア王国の内部にほどほどに詳しく、セドリックの知己であったが故の配置である。
元来の穏やかな表情が前面に出たアイザック。それが苦痛や不満に歪められた顔しか知らないフォリア公爵の目を欺いた。
一方、アイザックは父である公爵を見ながら「アイツももうすぐ……」と思うとそれなりにスッキリな気分だった。ノエルほど政情が変わったことによる死について忌避感がないことや、虐げられてきた年数もあって、「聖女様のためにさっさと片付けたいなぁ」なんて思っているあたりがあの公爵家に育てられた貴族である。
セドリックの帰還によって暗殺による「病死」が数件発生し、王の死はその結果といえる。
セドリックは母を利用するだけ利用して、人質として使い捨てたりした王なんて許していなかったし、自分に毒を盛っていた王妃も全く許していなかった。クロードはまぁ、何かされたわけではないので構わないけれど、父の寵姫も自分の息子を王位につけるために王をけしかけていたのでその被害もセドリックにきている。なので普通に許していなかった。
結果として、セドリックがそこそこに作っていた味方は嬉々として腐った王族をデストロイしてくれた。そして、忠義の化身たちは主人が気ままな立ち位置で過ごせるように沈黙をしっかり守る連中だった。
彼らの敬愛するセドリックは王位を望んでいない。アルカイックなスマイルで今日も黙々と仕事をしている。
クロードは普通にこういうのが城に残っていた事実に怯えた。
「兄上が王位に就くべきでは?」
「私は適度に好き勝手できる立ち位置で、妻とのんびり裏から政局を動かしたいんだ。王位は要らん」
兄弟の会話にアニータは困ったように笑った。けれど、セドリックから渡されたノエルからの手紙で一気にテンションがぶち上がってシャノワールに嗜められた。
「それより……もうそろそろ良いだろう?」
「ああ。特に心を入れ替えるつもりもないようだしね」
王のせいで疲弊した民のために、クロードは炊き出しを行ったり、地域によっては税金の緩和などを行なったりしていたが、それで王太子妃の予算が減ると知ったルイーゼは怒鳴り込んできた。今は必要な政策だと口にしても「そんなこと、わたくしに関係があって!?」と叫ぶ彼女のどこが聖女なんだろう、と今なら疑問に思える。
「私は聖人ではないからな。復讐も報復も楽しくやらせてもらうぞ」
そう言って口元に弧を描くセドリック。
その言葉に応えるように「仕事、終わらせてきたぜ」とゆるっとした声がその場に響いた。
上からひらりと舞い降りた青年は、立ち上がって息を吐いた。
「隠居してるっつーのに、人使いが荒いな王子様」
聖剣を肩で担いだ彼はアレン。
勇者が再び、彼らの前に姿を現した。
被害をたくさん被っていたセドリックはその分怒りを溜めてたりする。そのせいで同情票も多い。そして、セドリックの味方は聖女の過激派も多かったりするので、普通に王家におこ。クロードは怯えている。
ルイーゼは地雷を的確に踏んでいっている。




