自称聖女に詰め寄られた件
「わたくしが世界を救う聖女なのです。あなたには申し訳ないけれど、セドリック様やアルト様、アレンと旅に出るのはわたくしよ」
泣くのを我慢しながら睨みつける…ように見える名乗りもしない謁見の場にいた例の公爵令嬢。
なんだろうコイツ。
お前らのせいでこっちは異世界まで呼び出し食ってるのに何言ってやがるんだ?行く気あるならもっと早く言えやぶっ殺すぞ。
そんな気持ちを表面にはまるで出さず、驚いたようにまあるい目を作って、それから悲しげに瞳を伏せた。
「それでは、私は無意味に呼ばれてしまった事になります。私、私……」
ホロホロと涙を溢すと、リナリアが「フォリア公爵令嬢、国に認められた聖女様にこれ以上暴言を吐くようでしたら陛下に奏上しなければなりません」とキッと睨みつけた。いやあの人多分そこまで何かしてくれる感じじゃないので別に言わなくても良いです。
「私は、何のためにこの世界に呼ばれたというのでしょう?」
涙は拭わぬままじっと公爵令嬢を見つめる。すると、「何の騒ぎだ」と右の通路から第二王子とその仲間が、左の通路からはセドリック殿下と魔王討伐パーティが現れた。
「大丈夫か、ノエル」
「どうした、ルイーゼ!?」
セドリック殿下が私を、クロード殿下が公爵令嬢殿を引き寄せた。
「私ではなく、彼女が世界を救う聖女なのだそうです。旅に出るのはあの方なのだと……セドリック様、では私…私はなぜこの世界へ呼ばれたのでしょうか?返してくださるのですか?私の家族を、友人を……」
「いいや、少なくとも私の聖女足り得るのは君だ。例え他の者が本物だったとしても、ノエル。私がこの命を賭して良いと思えるのは君だけだ。私の光。私のただ一人よ」
そう言って私を抱きしめるセドリック殿下。小声で「あの女そんなことを言ったのか?」と聞かれたのでそっと頷いた。
「あなたの涙を拭うのは私だけでありたい」
「セドリック様……」
「セド兄上、聖女様。二人だけの世界を作ってる暇があったらもう少し何があったか説明してくれませんかねぇ!?」
「ルイーゼにも聞くべきだろう!?」
「後で聞きますが、優先度は向こうが上です。世界がかかっているのですから」
「なんだと……?」
「フォリア嬢は公爵が聖女としての旅なんてとんでもないと断固拒否です。そんな方を連れて行って先々何かあったらクロード兄上はどう責任を取るおつもりですか。そもそも、あなたは王位継承権の1位。まず自分が魔王討伐に行こうと思うあたりをもう少し考え直すべきです。いやですよ、僕の継承権が繰り上がるだなんて」
イライラとした様子の青年は、私を見て少し申し訳なさそうな顔をして、それから先程の生真面目そうな表情へと戻した。
「はじめまして、聖女ノエル様。僕は第三王子メーティスです」
「あの、ノエルと申します」
「この度は我が国が愚かにも聖女の召喚をした結果、あなたを国元のご両親、ご友人から引き離し、人生の全てを奪った事をまずはお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」
しっかりと頭を下げた弟に、セドリック殿下は「言い訳のしようもなくその通りだ。私からも国の不手際を正式に詫びたい。申し訳なかった」と頭を下げる。
兄と弟に「私のしたことが間違いだったとでも!?」と叫ぶクロード殿下はやっぱり嫌いである。
「この件に関してクロード兄上が召喚を行った事を全て間違いだとは言えません。聖女と謳われたフォリア嬢は荒事や旅に適性がなく、魔王討伐へ向かう事は難しかった。僕たちには手段がどうしても必要だった。だが、それはノエル様には関係がない。別の世界に生きる人を呼ぶとは、そういう罪深い事です。そして、役目を果たそうと立ち上がって下さった方に『その役目は自分のもの』だなんて言うのは非礼にも程があります」
細めた瞳のその視線は冷たい光を持ってフォリア嬢に突き刺さる。
「本当に聖女であるならば、最初から行くと言えばよかったのです。そうでないなら黙っていれば良い。これは最早、公爵家やあなたがどうこう言える問題ではない」
第三王子メーティスはもしかしてルイーゼ・フォリアが非常に嫌いなのかもしれない。こんな真面目系の青年が嫌うって、フォリア嬢よっぽど酷い性格をしているんじゃないだろうか。それか生理的に無理か。
なんとなく、「こいつ責任感ないから無理!」って感じな気がするなぁ。真面目そうだから。