縁を求められた件
お出かけ準備をしていれば、リーリアが不安そうに私たちを見るので「今日はなるべく早く帰ってくるわ」とその額に唇を落とした。嬉しそうにきゃっきゃと笑う娘が可愛い。
…メーティス似の娘も欲しいなぁ。可愛いだろうなぁ。
ランティスを渋々連れて馬車に乗る。基本的に辺境時代からの人しか信用できないという厄介な思考持ちなので結界を張ると、メーティスは苦笑していた。疑うことで今生きているみたいなところあるので申し訳ないけど我慢して欲しい。
「やっぱり君もそうだよね」
「君も?ですか?」
「実はこの馬車に安全機能をつけたんだよ。取り外しは僕にしか出来ないから事故の一回くらいであればなんとかなるようにね」
「やはり、リーリアのご両親の件もありますし考えてしまいますよね」
夫婦揃ってだった。
一緒に過ごしていると思考が似るのかもしれない。
とはいえ、夫婦で過ごす時間は減っているので一緒に居られるのは嬉しい。隣に座るメーティスの手をそっと握ると、一瞬驚いたような顔をしてそれから握り返してくれた。何でもないひとときというのが一番の幸せである。
ランティスが少しぐずるのを見て、軽く揺すると少しずつおとなしくなった。何故だかわからないけれど、自分で抱っこした方がよく寝る。リーリアとか今でもお休み3秒だ。
謎の才能なのか、聖女の力なのか。真相は不明だ。
無事にお城に辿り着くと、ラティスフォード殿下が現れて手を振った。
「よく来てくれた」
ほっとしたような顔をしている。というか皇太子が出迎えとか良いのだろうか?
「流石に聖女殿の出迎えに皇族が来ないわけには行くまい」
苦笑してそう告げる彼の隣には薄桃色の髪の少女がいた。柔らかなシアンの瞳の何と美しいことだろう。
「紹介しておこう。こちらは私の妃になる人だ」
「ハリエット伯爵家が長女、クロエでございます。聖女様にはお初にお目にかかりますわ」
愛らしい声で自己紹介される。なんか可愛いの擬人化みたいな人だ。
それでいて佇まいは美しく洗練されている。見かけだけの美少女ではないらしい。
お互いに挨拶をして謁見の間へ連れて行ってもらう。特に害意を感じない。まぁ、何かあれば女神様が限りなくおこなのである程度は大丈夫だとは思っていますけど。
「よくぞ来てくださった。この世にただ一人、異世界から来た聖女殿」
そこにいたのは紺色の髪、エメラルドグリーンの瞳を持つ壮年の男性だ。その隣には3名の美女が立つ。
一人は三兄弟の母親だろう。年齢を感じさせない美しさと水色の見事な髪。セルリアンブルーの瞳は夏の空のようだ。
その隣に勝気そうな青い髪の少女がいた。どこか小生意気そうなところが可愛らしい。ショートヘアーの彼女は金のゴージャスな耳飾りをしていた。
男性の左隣には紺色の髪のおとなしそうな美女がいた。アプリコットの瞳が私に向くと、慎ましやかに微笑んだ。高い位置で結い上げたボリュームのある髪が腰より下に見えるのだからとても髪が長いのだろう。
「私はアルフォード・マリク・ラビニア。この国を治める者です」
穏やかな声が部屋に響く。
右隣が皇妃グレース、左隣は第一皇女レイラ、皇妃様の隣の少女が第二皇女ルーシーである。つまりラティスフォード殿下のお父さん、お母さん、お姉さん、妹。
ここに呼び出した理由は、直接お礼を言うためと、予想通りというかなんというか。我が息子の様子を見たかったかららしい。
「聖女様におかれましては不服かと思いますが、実際に子供に取り入ろうとする者、強い力を我が物にしたい者は数多くおります。そこで、我らが関わっておればまだこちらからも口出しができますので」
そんなわけでメーティスに皇女娶らん?って聞いたら「僕の妻は彼女だけです」とぶった斬られたらしい。非常に信頼のできる夫である。
そして、その次が「皇族に年齢の近い女の子ができたら嫁にしてくれ」である。
「相性が良ければになりますね」
そう言うと、少し苦々しそうな顔をした。いやだって相性が悪くて互いにギスギスしてるのは幸福とは言えないし、下手すると愛人騒動で家がぐちゃぐちゃになる。目に見える。貴族によくある話だって聞いた。
「相性が良ければ良いのだな」
「ええ。この子が望むので有れば」
まぁ、私はそういうの分かんないけど、メーティスが貴族らしく育ててくれると思う。マナーとかしきたりは覚えられても、納得できないことってどうしてもあるからなんというか……ねぇ。
どうにかして血族に取り込みたい人たち。なお、ラティスはちゃんと家族を止めたけど話はメーティスまで行った。




