呼び出しがあった件
リーリアがドヤ顔でランティスに布団を被せていた。頭までかけていたので慌てて顔を出した。幼児怖い。
子育てって怖いなー!
そんなことを思いながら並んで横になる二人に子守唄を歌っているとメーティスが帰ってきたようだ。
……今の自分の容姿がやばい。
「簡単に着替えるわ。あと、軽くメイクをお願いできる?あ…ああ……髪……どうしよう」
ランティスに口に入れられてベタベタだ。もはや入浴しないと無理である。しょんぼり。
「ノエル、ただい…」
とりあえず扉を塞いで「会うのは入浴後でお願いします!」と叫んだ。
いくら並の容姿の私でも、好きな人には出来るだけ可愛い私を見てもらいたいという女心である。
そのまま急いで身だしなみを整えて会いに行くと、苦笑していた。
「別にわざわざ着替えなくてもよかったのに」
「いいえ!旦那様にはいつもわたくしの綺麗な姿を見ていて欲しいのですわ!乙女心ですわ!」
力いっぱいそう伝えると、メーティスは「僕の奥さんは本当に可愛いね」と私の額に唇を落とした。愛も可愛いも綺麗も努力なしでは目減りするものだ。愛される努力を怠ってはいけない。
「そういうのは、狡いです。好き…」
メーティスに伝えられる言葉のなんと甘美なことか。
素直に気持ちを伝えると、それだけ彼の気持ちが返ってくるのだ。どうやってもやめられない。ただ、貴族じゃなかったらボロボロの姿で会わないといけなかったことは想像に難くないのでこれだけは爵位貰えてよかった〜って思う。
「狡くないさ。君が僕にとって一番可愛い人だから自然にそうなってしまうんだよ」
見上げた先の緑色の瞳は愛しげに細められ、照れているのか薄らと薄紅に染まる頬を愛しく思う。
見つめあっていると、サフィールが咳払いをした。
「旦那様、お話があったのでは?」
その言葉にハッとしたメーティスは気まずそうに頬をかいた。
「体調が戻りきっていないところ申し訳ないけれど、皇城に呼ばれているんだ」
「わたくしが、ですか?」
「君と、ランティスが、だよ」
産まれて2ヶ月を過ぎたばかりの子を連れてこいとはどういうことだ、と眉間に皺を寄せる。
けれど、ガラテアでお世話になった大司教様が来ていると聞いて溜息を吐きながら承諾した。聖女の力が子孫に遺伝しているのか、いないのか。皇家の関心はそこにあるらしい。
「危険なところに行かされたり、変に婚姻を結ばされるよりは遺伝していない方が良いのですが」
こちらに来た時に私とメーティスを引き離そうとした連中がいた事は忘れられない。貴族としては落第なのかもしれないけれど、私は誠意を持って結ばれた政略結婚ならまだしも、利益だけを求めたそれには抵抗がある。
「成長したランティスがどう思うかはわからないが、あの子には聖女の息子という称号が一生ついて回る。本当ならばもう少し様子を見たいものだが、ランティスが今のところ健康である以上、皇帝からの命令では断れなかった。とはいえ、赤子は体調を崩しやすいものだ。日程がズレるかもしれないことについては了解を頂いている」
たしかに私の魔法で癒すことはできるけれど、そういう時は治してもまた体調を崩しがちだ。だからこその調整だろう。
「すまない。どんな事からも君たちを守りたいのに」
「いいえ。守っていただいておりますわ、あなた」
実際、メーティスでなければ人によっては産まれたその日に子供を奪われていただろう。場合によっては出て行く覚悟も必要かしら、とそっと息を吐いた。




