メンバーチェンジになった件
ニューメンバーで魔王討伐に行けることになった。いえーいクソメンバーじゃなくなった!
「アレン、見たか。あの女狐っぷり。まぁ、よく心にもないことをあのように愛しげに言えたものだ」
「セド、お前の熱意ある告白には負けるよ」
いつの間にか気安く呼び合う仲になっていた王子と勇者を見ながらにっこりと笑う顔を作る。本当にお前よりはマシだ。どうやったらそんなにスラスラと小っ恥ずかしいセリフが口から出るんだろう。
「まぁ、ここに来て冒険へ出る聖女は自分だと名乗りを上げるフォリア嬢よりはマシだろうさ」
「ゲッ。そんなこと言ってたのかよ……。訓練で無理だったのにいきなりできると思ってんのか?」
「クロードを含めた周りの男を取られると思ったのではないか?弟たちは賛美するがあれほど底の浅い人間も居るまい。そも、次期王になると分かっているのだから悩みや苦しみなど、自分で解決しろ。聖女でなければとけないような呪いならともかくな」
「……あー。もしかしてあの女が嫌いすぎて自力で呪い解く方法探してたってマジなの?」
「いや。私は昔はまるまる太っていたし、昔から彼女は私のことが嫌いだったよ。呪いを解こうか、と聞かれた事すらない。母上はフォリア公爵に頼んでいたようだが、相当な金額を要求された事で諦めたらしい。それは、とても私一人のために使えるような金額ではなかったと聞く」
「クソじゃん」
わー……貴族って怖ぁ……。つーか、太ってるからって嫌ってた相手の治癒を実質拒否した相手にあんな熱の籠った視線向けてたのヤバいな。嫌われてるぞ、普通に。
「その点、ノエルは利用できるなら私がまるかろうが呪いを解いただろうというところが人間らしくて良いな」
「聖女らしさが微塵もないことに言及した方がいいか?」
「あら、能力だけでしたら文句なしで聖女ですよ?」
ふふ、と口に手を当てる。
別に本当は聖女らしくなくてもいいのだ。だって好きでなっているわけじゃないし。この世界がどうなろうが知ったことではない。魔王についた方が益があるならそうしたっていい。でも、とりあえずこの国に呼ばれてしまったから生活のことを考えてそうあろうとしてやっているに過ぎない。
本音を言えばすぐに全て投げだしてしまいたいが、それだって自分のような世間知らずが外へ出て普通に生きていけるかと問われると否である。最低でも外へ出て民の生活を知らねば判断がつかない。
いつだったか、第二王子狙いの御令嬢が「平民のくせに王子に媚びて取り入るなんて」と思い切り蔑んだ顔で言ってきたが、私は元々日常生活に苦労するような世界にいたわけではないのだ。むしろ勝手に人の生活の質を低下させた娯楽も特にない世界に呼び出したのだから、本来は大切に、大切に(大事なことなので繰り返した)してもらわなければ割りに合わない。
拉致誘拐をしてきた国の連中が不満ばかりぶつけてくるのは本当に心底この国の存在意義を考えてしまう。
「能力だけではないだろう?」
そう言って怪訝そうに私を見るセドリック殿下に首を傾げた。
「勝手に親や友人と一生の別れをさせておいて、助けてくれと縋り付く誘拐犯の頼みを聞いてくれているんだ。この慈悲深さを持つ女を聖女と呼ばずしてなんと呼ぶ。私は謝っても謝り足りないくらいだ。申し訳がない」
一応彼には自覚があったらしい。
そんな殊勝な考えを持つ人間がいるとは思わなかった。
「どうした。珍しく間抜け面じゃあないか」
「いえ、なんでもありません。ですが、少し意外でした。私がこの世界で出会った人間の多くは、平民1人連れてきたところで、といった方でしたので」
「お前の話によると、故郷は文化水準が遥かに違うのだろう?そんなところから勝手に呼び出され、戻れぬと言われたのだ。滅びろと思われても仕方がない」
「実際、帰れないものなのでしょうか?」
「伝わっているのは呼び出す方法だけだ」
忌々しげにそう言って、腕を組む。アレンは「そりゃ、お前だって王子なんて信用できないって荒むよな」と納得していた。
「そんな方法で他人を呼ぶなど正気ではないと普通は思うが」
苦々しげな言葉に頷いた。私もそう思う。