復讐を考えないのには理由がある件
なんか、ガラテア王国の連中が帰るときにはクロード殿下へ向けられる怒りみたいなものが減っていて、代わりにルイーゼさんの呪い的なやつが増えていたんですけど。
これってクロード殿下は反省したけど他はそのままってことかなぁ。まぁ、関係ないしいいけど。
そういえば向こうからの親書に聖女返せってあったらしいんだけど、クロード殿下はそれ聞いて真っ青になっていた。あの王様、そろそろ息子の邪魔するのやめてほしい。そしてそれを気遣うのがシャノワールさんだけってやべーですよ。後ろの奥方とその取り巻きはむしろ睨んできたからもう少し反省してほしい。
「ラティスが、貸しは作れたが戦争で勝って平定してしまった方が楽だっただろうかとまだ言っていた」
「統治者が代わるのが手っ取り早くはあるでしょうけど、あれだけ必死なクロード殿下が走り回っているのであれば彼を殺した後の国民感情は読めませんわね」
ロージア辺境伯令嬢アニータからの手紙を苦笑しながら引き出しにしまい、感想を口にすれば、「正直ホッとしているよ」と彼は苦笑した。
「君には憎いだけの男かもしれないけれど、昔は同母の僕には優しかったからね」
そんな家族を捨ててまで一緒に来てくれたメーティス。なるべく優しく微笑んで、その手を握った。
「全てはあなたと出会うための試練だった。今はそう思うのです。だから、今のわたくしはそこまで強くあの方を思ってはいませんわ」
やはり苦笑になってしまうのは仕方がないだろう。だって、便利さと平和を謳歌していた私がここに来て無事に生きているのはそれこそ奇跡のようなもの。
だから恨んでない、なんて言えっこない。
それでも、たった一つの尊いものを与えてくれた事だけは感謝している。もう少しで大切なものはもう一つ増えるけれど。
「わたくしはあの国の王やルイーゼさんの幸せを願うことはできません。けれど、彼らのために、わたくしに花をくれた子、感謝を伝えてくれた人、食べ物や水を分け与えてくれた人。寝床を与えてくれた人。そんな人たちが苦しむことは望みません。そのために王として一番相応しいのがクロード殿下であるのならば、彼の無事を祈りますわ」
きっと、ずっと城や神殿に閉じ込められていたのなら、私はこんなふうには思えなかっただろう。
「……そう思わせてくれたのは、わたくしを幸せにすると誓ってくださったメーティスですわ。もちろん、リナリアやサフィール、クロウの助けもありますけれど」
あなたが大切に思ってくれるから、私は復讐なんて考えずにこうしてここで笑っていられるの。
そう思いながら、彼の頬にそっと唇を当てた。
そう。私は別にそういうのは考えてない。
けれど、ルイーゼさんはこれからもっときついだろう。




