ささやかに祈る件
メーティスの過保護が加速した。
重いもの持とうとするとすぐさま取られるし、リーリアを抱き上げると周囲でそわそわする。不思議そうな顔をするリーリアは可愛い。
メーティスの妻が聖女であると知れ渡ったためかちょっかいも減ったらしい。そして、聖女の夫が公爵になった事も広がったのであからさまにちょっかいが減った。
代わりに、公爵家の「親族様」とやらがうちにいらっしゃるけれど、みんな追い返している。
しつこい一家もいるし、一回制止を振り切って突っ込んできたけれど、ひ孫を待ち望むガチギレした前公爵に追い払われた。
その上で「貴様らに継がせるくらいであれば爵位など国に返してくれる!!」と塩を撒いた。
もったいない。
あと、塩を撒く文化こっちにもあるんだなぁ、と思いました。
「かーたま!」
「あら、どうしたの?」
リーリアは最近少しずつ話すようになってきた。にこにこしている時もあれば、ちょっと何が気に食わないのか分からないけどめちゃくちゃ泣く事もある。母親業って大変すぎない?貴族になったから乳母とかつくけど、それだって信用できないからあんまり雇いたくない。すっかり人間不信だった。
「ん!」
笑顔で両腕を上に上げる。これは抱っこっぽいな、と抱き上げようとすると、リナリアがすっと抱き上げた。抱き上げたのが私じゃないと気づいてどんどん顔が歪んでくる。
そして、弾けるように泣き出した。リナリアはすん、とした表情をしている。
「ソファの上でお願いいたします」
あ。そういう……。
人一人をお腹の中で育てるって気をつけなきゃいけない事いっぱいなんだなぁ。
適度には動かないといけないけど、出来るだけムリしないようにしないといけないらしくって、お外に行くのもメーティスがあんまりいい顔しない。
お庭はセーフだけど、護衛は絶対つけてって言われている。なんか、妊娠初期って眠気が強くなりやすいんだって。だから私が魔王退治に出かけた聖女で強いって分かってるけど、襲われた時に「もしも」があるかもしれないのでサフィールとクロウは常にそばにいてくれるようになった。私だってメーティスの子供は絶対産みたいので気をつけるに越した事はない。
ソファに腰掛けてリーリアを受け取ると、べしょべしょの顔で笑う。ハンカチを受け取って顔を拭くとやっぱり可愛い顔があった。
こういうのを見ると、リーリアを遺して逝った公爵令息夫妻はすごく無念だったろうなぁ。メーティスと同い年だったらしいその夫婦と、その両親。彼らに恥じない子に育てるとかできる気がしない。私には。
けど、私は一人で子育てをするわけではないからきっと大丈夫だと信じたい。
膝の上に乗った彼女の頭を撫でる。
何人も、この子を害することがありませんように。




