体調を後回しにした件
うーん。最近なんか、食べ物の匂いとかで気分悪くなっちゃうことあるんだよなぁ。
お披露目の夜会のドレスを纏いながらそんなことを思っていると、リナリアがレモン水を用意してくれた。美味しい。
無限にレモンとかが食べられる気がする。この辺りでは高価でなくってよかった。今柑橘類がなくなったら餓死する。メーティスに心配かけるからなんとか彼の目の前では食べているけど、吐いちゃう。
「お綺麗ですわ」
うっとりとドレスを見るマダムにお礼を言う。なんというか、多分ドレスしか見てない。
けれど、ジミ婚だったし、それまで聖女として旅をさせられてきたので自分のためのドレスって実は持ったことなかったんだよね。自分が動く度に優美に揺れるドレスはたしかに美しいし、テンションが上がる。
「旦那様も声が出ないほど感動なさいますわ」
「ふふ、そうだといいのですけど」
微笑ましげに言うリナリアに、思わず照れてしまう。ドレスアップした姿ってあんまり見せることなかったのでちょっと緊張してしまうのよね。
まとめた髪やアクセサリーは変ではないか、何度も確認しているとノックされて「入っても大丈夫かい?」とメーティスの声がした。「はい」とお返事をすると、彼は扉を開いて部屋へと入ってきた。
「…どうでしょうか?あなたの隣に立って、遜色ないように見えればよいのですけど」
少し不安だったので尋ねると、メーティスの驚いたような顔が、優しい笑顔に変わった。
「いいや。君が美しすぎて、女神が舞い降りたのかと思ったよ。むしろ僕が君という輝きに霞んでしまいそうだ。こんなに美しい妻を誰にも見せたくないと願ってしまう愚かな僕を許してくれるかい?」
「許すも何も、あなたのために着飾ったのですわ。メーティスが美しいと言ってくれるのならばそれが一番です。…いつも、尊いばかりに愛しいあなたを送り出すわたくしの気持ちが分かっていただけたようで良うございました」
見つめ合うとその瞳の熱に溶かされてしまいそうだ。頬に当てられた手に自分の手のひらを重ねると、…こほんと咳払いをする音が聞こえてそちらを向く。クロウがシラーッとした目で私たちを見ていた。
「すまない。まだパーティーも終わっていないのに時期尚早だった」
赤く染まった頬の夫が可愛くってハッピーになってしまった。
そういえば、体調関連についてメーティスに言っといた方がいいってリナリアに言われたんだった。あとお酒も飲んじゃダメって言われた。なおかつ、自分以外から飲み食いしないでって言われた。やたらと真剣な目だったのでしっかり頷いた。未成年なのでお酒はちょっと抵抗あるし素直に従っておこうと思う。体調のあれこれはこれが終わってからでいいかな。




