優しい聖女はいない件
選んだ宝石があからさまに「メーティスの妻は私ですが?」アピールだったらしく、爆笑するサフィールの頭にロバートさんは思いっきり拳骨を落としていた。リナリアはにっこにこだった。
私はメーティスが大好きなので別にいいんだけど、あの人は不快には…うん。ならないですね。絶対それだけはない。
「旦那様もきっとお喜びになりますわ」
リナリアが嬉しそうにそう言ってくれたのでこれで決定でいいと思います。
というか、そんな特徴あるかな?
メーティスが自分で選べないの残念がってたけど、メーティス用の装飾品も私が選べるのは役得というやつじゃないかな。
そして、これはサイズを直したりして後日改めて納品されるとのことです。めっちゃ気合い入ってたので大丈夫でしょう!
というか、初めにいた国があんなだったことを除けば私って結構運強い方な気がするなぁ。なんやかんや異世界で生きることができてるし。元気にそれなりの立ち位置で過ごしているってだけで豪運な気がする。これが女神様の加護かな?
お買い物を終えて部屋を出ると、リーリアの泣き声が聞こえてきた。リナリアと目線を合わせて部屋に急ぐと、メイドの一人をクロウが踏んづけてリーリアをガッチリ抱きしめていた。
「奥様、暗殺者が……!」
年若いメイドがそう言ってクロウを指さすけれど、彼は彼女を見て首を横に振った。
というか、元暗殺者だと分かって利用するのはまぁ、うん。考えたなって思うんだけど。
「……信頼度が違うのよねぇ」
魔法で風で操り、そのスカートを少し上げると、太もものあたりにベルトで刃物が挿してあった。
「なっ…!?」
「わたくしはね、そうやって人を陥れる人好きではないの」
さんっざんやられてきたからね!!
あと義理とはいえ娘を殺されかけたっぽいのに、軽い罰で済ませる気もなければ他の雇われた暗殺者を助けてやる義理もなかったりする。
「どうする」
「メーティスの望むように」
「…りょーかい」
「でもできれば背後関係を洗えれば嬉しいわ。リーリアに何かあることをわたくしは望みません」
よそ行きの対応をしていたはずだったけれど、思ったより嫌悪感増し増しの声が出た。それにクロウが笑って「かしこまりました」と言う。なんだか少し安心した顔してるけどなんで?
「お優しい聖女様らしくなかったから、今のセリフで安心したわ」
「優しい聖女様、なんて初めから居ないよ」
困った子だなぁ、と思いながらそう言うと弟によく似たその顔は不思議そうな表情になる。
そう、居るのは初めから「誘拐されて身寄りもないただの十代の女」だけだ。




