義娘になるかもしれない件
ふわりとした赤髪に、新緑色の瞳。1歳だという女の子はとても愛らしい。特にメーティスと瞳の色が似ているところが最高。
座ったまま紙に絵を描いている。顔に墨が飛んでいるけれどそういうところもなんだか可愛い。
「お嬢様!」
メイドが青褪めた顔で紙と筆を回収すると、その紙には文字が書いてある。書類関係を幼児の手の届くところに置いちゃダメだよ…。
おもちゃがなくなったからか泣き出した女の子を抱き上げると、驚いたように目を見開いて、それから…驚くべきことにすやすやと寝息を立て始めた。
えっ、マジで?
「聖女様、申し訳ございません!今変わります」
「いえ、起こしても可哀想ですししばらくこのままで大丈夫ですわ」
あまりにも気持ち良さそうに寝ている。一応顔の汚れだけ魔法で落としておいた。生活魔法、やはり便利なんだよなぁ。
メーティスが公爵様とお話の間先にと案内されたのだけれど、あまり人がいない様子なのが気にかかる。書類を幼児が手にしているあたりがちょっと怖い。
「お手間をかけて申し訳ございません。分家のものの対応に追われておりまして、お嬢様のお世話をできるものも減っていまして」
なんか、もう自分が次期公爵のつもりになっているやつが数名いるらしい。そんで、この子は邪魔なので始末しようとかしてる人もいるらしくって人の引き抜きとか、裏切りとかでてんやわんやしてるらしい。じゃあもう少し警護増やした方がって思ったんだけど、それも簡単じゃないんだって。
そもそも新しく人を入れることにも慎重になっちゃってるらしい。権力と金って怖い。
「ノエル、そちらは……うん。なんか大丈夫そうだね」
メーティスが女の子…リーリア・ノインシュタインの寝顔を見て苦笑した。
そして、私を引き寄せる。
「幼な子を抱き上げる君はまるで聖母のようだ。早く僕の子を抱く君の姿もみたいな」
蕩けるような甘い声音に顔が赤くなるのを感じる。
「もう、あなたったら」
そう言って怒ってるぞと主張するように顔を見上げるとなんだか微笑ましげに笑った。なんでだ。
「二人とも、私の存在を忘れていないか?」
後ろから聞こえたノインシュタイン公爵の声にそんなことはないよって言いたいけど、否定しきれなかった。新婚なので許して欲しい。
ところで、新婚というのは何年まで適応されるものなのかしら?




