恋に盲目な件
私の旦那様が最高に格好良いのは当然なんだけど、最近は甘やかしが過ぎる気がしている。
うーん、でもドライヤーは嬉しいし洗濯機はリナリア大喜びだし、なんか最近買ってくれた美容液?的なもののおかげで肌荒れ知らずだし、旅してた頃の自分が見たら泣いて羨ましがる事間違いなしな感じだ。
「もっとお願いしてくれても構わないんだよ」と私を膝に乗せて言ってくるメーティスってばどこの世界の王子様なんだ。この世界だった。
そんなわけで溺愛生活を送ってたら外に出る時間がますます減った。なんで?
なんか、夜は愛され尽くされて過ぎていくので起きる時間が遅くなってしまっているのも原因かもしれない。
……元の世界だと「爛れた生活」に入るのでは?
「困ったわ。もう少し健康的に生きるべきね」
そう言うと、リナリアもサフィールもクロウも困った顔をした。
えっ、だって今の私聖女とはいえ平民なんだからもう少し慎ましく生活するべきでは?違うの?
「奥様、そういえば旦那様からお仕事の話を聞かないですもんね」
「奥様、旦那様の体調には興味があっても地位に関してはあまり興味がないという不思議なところがございますものね」
なんで二人ってばそんな事言うのかな?えっ、もしかして昇進したの!?
「昇進したのなら早く言ってもらわないと!メーティスのお祝いができないじゃない!!」
「これだもんなぁ」
何がなんだろう。
首を傾げると、「そのままでいてくださいまし」とリナリアが微笑んだ。そのままでとは。
恋は盲目とはよく言ったものでいつの間にかメーティスしか見えなくなっているし、メーティスにしっかり守ってもらえている現在、あまり警戒しなくて良い生活も快適だ。
ダメになりそう。ついでに、今メーティスに何かあったら世を儚んでしまいそう。人を好きになるって怖いな。
ほぅ、と溜息を吐く。
とりあえずやれることをやろうとお裁縫の道具を取り出す。
メーティスが寄付用じゃなくて自分用の刺繍をして欲しいって言ってたので。
「こういうのって、家紋とかを刺すと聞いているのだけれど今ってどういう模様にすれば良いのかしら」
「そうですね。名前あたりが無難でしょうか?」
「そうね、そうするわ」
ちまちま針を通すのって気がついたら時間が過ぎてるので嫌いじゃない。メーティスが喜ぶのなら尚更だ。
そんなことを思いながら日々を過ごしていたら、メーティスが怒りながら帰ってきた。
「少し成果を出した途端に既婚者だと知りながら擦り寄ってくるなど、なんて浅ましい」
たまたま窓からメーティスがラティスフォード殿下と一緒に帰ってきたのが見えたのでお出迎えしたらラティスフォード殿下がメーティスを宥めていた。
救いを求めるように私を見た殿下はちょっと後悔した顔をしていた。
「私の旦那様を狙う輩がお城に?」
「ノエル、すまない。君に機嫌の悪い顔を見せてしまった」
「それは良いのです」
「良いのか」
「問題は、その、女です」
メーティスが靡くとは思わないけど。絶対に、100%ないけれど。そもそもメーティスそういう女毛嫌いしてるけど。
既婚者に粉かけるってどういうつもりか。この世界ってば貞操観念緩いの?
「貞操観念がゆるっゆるの女がメーティスの側にいるなんて」
「……我が孫ながら独特な方を選んだものだ」
「いや、メーティスはこれの上をいくぞ」
ラティスフォード殿下の後ろに知らないおじいさんがいてちょっぴり正気を取り戻したら、メーティスは嬉しそうに私を抱きしめていた。
「嫉妬してくれるノエルも可愛い」
今日も私の旦那様は私に盲目だ。




