美女を紹介してもらった件
ケイト先生に紹介された美女に魅入っていると、コホンと咳払いをする音が聞こえて我に返る。
「初めてお目にかかります。ノエルと申します」
「あたしはナージャ!ナージャ・フォレスターというの」
出るとこ出てて締めるとこ締まってるボディーすごいな。どんな努力してるんだろう。あっ、セドリック殿下くらいヤバい努力なら教えて欲しくないです。いや、マジで。
「ほら、息子アレだけど意外と優秀なんだよ。僕の知ってる中でそれを超えるかどうかっていうのがナージャくらいでね。本当は男性数人と女性が一人の旅って不安だろうし初めっから彼女をつけようと思ってたんだけど陛下が男を付けろって頑なに言うからさぁ」
「なのに今彼女を紹介して頂けたということは事態が変わったのでしょうか?」
「うん。ほら、君とセドリック殿下今噂撒いてるでしょ?セドリック殿下と君の恋物語を本当にするのであればむしろ他の役にも立たない男って邪魔だろうってね」
「偉い人って勝手よねぇ」
本当に勝手である。これ帰る方法はあっても教えてくれないだろうなー。フォリア公爵令嬢マジ聖女名乗るなら聖女活動してくれ頼む。
そういえば最近、軍の魔獣討伐について行くことになって同行した。むせ返るような血の臭いに吐きながら治療した。吐いてもやめなかったら「その形の割に根性あるな!」「あのお嬢様はすぐに帰ったのにな」とのことである。こっちはお嬢様と違って役立たずイコール死なので一緒にしないで欲しい。
そのあと少し痩せた。セドリック殿下が無理やり口に突っ込んでくるせいで少しで済んだ。しかも、特訓は続行である。アレンは「魔王ってコイツじゃないのか?」とボヤいていた。残念ながら人間である。
「あたしも団長の甘ったれな息子とその愉快な仲間たちよりはアンタみたいな可愛くて根性ある子の方がいいし!」
「はは、酷いことを言うね」
「女の趣味はもう少し良くした方がいいと思うわ」
「それは尤もなんだけどいえば言うほど燃え上がるからね、ああいうのは」
穏やかにそう言うケイト先生だが、目は笑っていない。だいぶおこである。息子に対しても多分おこだけど例の御令嬢にもおこな気がしている。
それにしても、主に傾倒しているのはクロード殿下入れて四人だっけ?その他も公爵令嬢に好意を寄せる連中いるっぽいけど、聞く限りは割と高位貴族が多い感じ。その他は聖女ってことにも疑問を覚えているみたいだ。
そこに第二王子の派閥が陛下に許可を得て行った召喚で現れたのが私。
彼らはあくまで公爵令嬢の代わりとして私を呼んだものの、あっという間に現場にいる人たちに「結構頑張ってるな」という評価を得た私を「俺たちが呼んだんだぞ」とドヤ顔で言って回っているらしい。アリシア様は「失笑いたしましたわ」と言っていた。
彼らがやってることは私を呼んだくせに私への嫌がらせばかりだからだ。
そもそも、アリシア様を寄越したのも嫌がらせらしい。ルイーゼ・フォリアが彼女の厳しい王子妃になるための教育に耐えられなかったため、聖女の教育のためと引き離してこちらへ寄越したという話を聞いて眩暈がした。権力を持つ家の娘なんだからもっと必死に頑張ってほしい。領民に生かされている自覚はあるのか。そして王子妃になる気はあるのか。
他のメンバーにしても、理不尽な目に合わせて初めから上下関係をはっきりさせておこうぜと示し合わせて雑な訓練をさせようとしてたらしいので本当に無理。なんだ?ルイーゼちゃんがそんなに好きなら好きな女と一緒に魔王退治行ってこい畜生共め。
「勇者アレンに王籍の男子は私、騎士からはアルト、魔術師はナージャ、そして聖女ノエル。まぁ、布陣としては問題なかろうよ」
「陛下もよく許可を出しましたなぁ」
「聖女に救われた王子とその恋物語は魅力的だろう?そう言うことにした方がフォリア公爵令嬢を取られる心配がない、とクロードも快く認めてくれるだろうしな」
皮肉気に顔を歪めるセドリック殿下。気がつけばがっしりとした体格の美男子になっていた。儚かった期間はなんだったのか。
「これも主のお導きでしょう」
習った通りに祈る仕草をする。ちなみに教会では受けが良い。
聖女らしい姿を見せるとさすが聖女様って言ってもらえるので。教会内ではすっかり聖女様は私だけ扱いである。
「求められる聖女像をさっと作ってみせたところはさすがだな、女狐」
「お褒めいただきありがとうございます。狸殿下」
「はは」
「ふふ」
こうやって化かし合う姿を見せていると、アレンがドン引きするのだけど別に構わない。最悪、結婚することになるかもしれないねって話にもなってるので変に遠慮したりする方が後々面倒である。
「恋人ではなく悪友にしか見えませんよ、殿下」
「外で恋する少女になってくれればそれ以上は聖女として以外期待せん」
「私も外で愛しい王子様になってくださるのであれば、今はそれ以上期待しません」
「今は、か?」
「ええ。帰る方法が本当にないのでしたらお嫁さんにしてくださるのでしょう?そうなれば、私だけ愛してもらわねば困ります」
「存外に愛いところもあるではないか」
意外そうに微笑むけれど、下心満載だとは思わないんだなぁとこちらも意外に思う。私はお前に恋などさせないぞ、こちらの目的を叶えないなら責任はお前に取らせるからなと言っているんだけど。
平民の聖女と結婚するって貴族的には罰ゲームだと思うんだけど。王族的には人気取りのために欲しいらしいけどね。
「聖女ノエルも結構いい性格してるわね」
「その方が君もやりやすいだろう?」
「そうね!」
元気よく返事をされてしまったけど、そんなにいい性格しているだろうか。
私はただ平穏に生きたいだけなんだが。