人の噂って怖い件
「うん?つまり、あなたを妻に迎えても兄上の役に立つどころか逆に迷惑になるということか?」
「そういう事ですね」
「なんという事だ!リチャード兄上に謀られた!!」
ガーン!という文字を背景にレイナード殿下は落ち込んだ。ラティスフォード殿下は疲れたような顔をしているし、メーティスは私を抱き締めて離さない。
「メーティス、ほら。顔を見せてくださいな。……寂しいでしょう?」
「ノエル……」
「本当に仲が良いみたいだな!噂に踊らされ申し訳ない。俺はそんなに頭が良くないんだ。だから兄上方の言う事を出来るだけ聞くようにしているのだが」
「いつのまにか自分で判断できんようになっていたのだ。悩め、考えろと蹴り飛ばしてきたというのにそれが発揮されるのは戦場だけ」
「うむ!申し訳ない!!」
カラカラと笑うレイナード殿下の頭を思いっきりグーでぶん殴ったラティスフォード殿下は「申し訳ないならもう少しそれらしくしろ。私にお前を殺させてくれるな」とお怒りマックスっぽい低い声で言った。
「はは、兄上は意外と人情派だよなぁ!そこらへんリチャード兄上を見習った方がいいぞ。あの人は俺を見捨てても心なんて全く痛まないからな!」
「阿呆。そういうのは王に向いているというのではない。ただの人でなしというのだ」
呆れたようにそう言うラティスフォード殿下の右手はガッチリとレイナード殿下の頭に食い組んでいた。
痛くないのかしらって思っていると、顔をメーティスの方にくいっと回された。
「僕だけ見ていて」
ときめいた。
狡い。
「そういうのは後にしてくれ。というか、リチャードか。また難儀な」
「僕はノエルさえいてくれればそれでいい」
「仲が良いな!」
声が大きい。でも仲が良いのは本当ですけどね!
なお、ラティスフォード殿下が「うるさい」と握力を強めていたが、「痛いぞ!兄上!!」とちょっと顔を顰める程度だった。どうなってるんだこの皇子。
「聖女殿も、要らぬことに巻き込みかけていたようですまない。俺ももう噂に踊らされないようにしっかりとしようっ!」
「噂って何かな」
怒ってる時の声でラティスフォード殿下の顔を見るメーティス。なんか目隠しされてしまったけれど、怒ってる顔そんなに見られたくないの?
「……ガラテア王国第一王子セドリックの婚約者を、メーティス。お前が無体を働いて寝取ったと言われている」
「あら……まぁ。メーティスってばそういうやくざなこととは無縁なのに、人の噂って恐ろしいですわね」
「実際は王命だからねぇ」
「お前らはいちいちイチャつかねば話ができないのか」
そういえばセドリックさんってば今どこにいるんだろう。どうせ元気だろうけど。むしろ王子やってる時よりイキイキしてそう。




