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異世界召喚された聖女は穏便に幸せになりたい  作者: 雪菊
聖女、引っ越しました

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52/112

賭けに勝った青年



青年が目を覚ますと、清潔なベッドで寝かされていた。手足が拘束されていたことには戸惑ったが、身体の調子は劇的に良くなっている。

どうやら自分は賭けに勝ったらしい、と青年は息を吐くと「目が覚めたようだな」と冷たい声音が部屋に響いた。



「メーティス殿下……!?」



亡霊が目の前に現れた、そんな風に一瞬だけ考えた青年だったが、それにしては顔色が良い。かつて、城に行った時に見た彼より健康そうに見える。

妹は酷い、だの冷たい、だのごちゃごちゃいっていたが、アイザック自身はメーティスが嫌いではなかった。王太子より余程まともなため王位につく人間を変えた方がいいとすら思っていたくらいだ。


異世界から聖女を呼んだ折、その場にいた彼は、手を差し出す事も叶わない自らの立場に歯噛みしたものだ。しかも、彼女は公爵家から出した教育者を役に立たないと他の者に代えた事で、父に目をつけられた。その時も庇う事は出来なかった。

アイザックは公爵家の中で立場が非常に弱かった。


だからこそ、彼は「ルイーゼとクロード様の次男を公爵にしてくださいませ」という妹のおねだりに頷いた父親に領地の魔石の管理をしろと飛ばされ、そこで起こった事件により「嫡子たる資格なし」とされた挙句に黒瘴石が発する瘴気に身体を蝕まれることとなった。

民にとっては幸いなことに、彼は魔力のコントロールに非常に優れていた。そのため、なんとか自分だけが苦しむだけで済んだ。

だが、死んでしまうとその瘴気は一気に広がる。だから閉じ込めようとしていた公爵家の監視を掻い潜り、噂だけを信じて隣国へと渡った。公爵家はまともな治療をする気がなかったし、彼が死んだとして遺体の浄化を行える人材が国にいない事を知っていたからだ。



「お助けすることが叶わず、申し訳……」

「そんなことはどうでもいい。済んだ話だ。それよりも、なぜお前がここにいる」



アイザックはメーティスの突き放すような言葉に謝罪の言葉を飲み込んだ。そして、フォリア公爵家と自分の状況について話すと、メーティスは不機嫌に目を細め、いかにも面倒だという口調で「そうか」と告げる。


メーティス・クロヌ・ガラテアという青年は、ノエルを思うからこそ、最近その物腰は比較的柔らかいものとなっている。だが、それ以外に関しては幼少期からのルイーゼのせいで女性不信、恋愛不信を拗らせていたし、ルイーゼの家族も嫌いだった。メーティスはフォリア公爵家の被害者でもあるアイザックもしっかり嫌いだった。だが、同情もしていたのですぐに叩き出したりはしなかった。


ルイーゼのせいで氷のプリンスとか言われていたメーティスは、その名の由来となった冷たい瞳をアイザックへとむける。



「明日にはもう追い出す。我が妻の目に触れない何処(いずこ)へと疾く失せるがよい」



彼の全ては妻に捧げられている。なので、その妻に危害を加えられる可能性のある全てが排除対象である。本来ならば。

これで「出て行け」程度で済んでいるのはアイザックの命を救ったのがノエルであるからだ。ノエルが救った命でなければ多少後味が悪くはあるが、惜しくもなんともない。愛妻家の元王子様は普段は比較的温厚だったが、妻が関わった途端に結構過激だった。



「メーティス、急患の様子はどうしましたか?」



しっかりいつものきっちり着込んだ服で朝一番に見にきたノエルに、メーティスは相好を崩した。

すっかりにこやかになったメーティスをアイザックは化け物でも見るかのように見つめる。



「もう大丈夫そうだよ。これ以上、君の側に部下でもなんでもない信用ならぬ男がいるのは我慢ならないから、明日には放り出すね」

「メーティスってば……。でも、元気そうならばよかった。気をつけてお帰りになってね」



そう言って微笑んだ後に、少し困った顔をして「でもわたくしとメーティスのことは内緒にしておいてくださいませね?もう暗殺者に狙われる暮らしはしたくないので」と続けてアイザックは頭を抱えたくなった。暗殺者まで差し向けるなんて何と愚かな、と思う。そして、国に起こっている大半の災いの原因の一端を知った。歴史を学んでいれば女神の恐ろしさなんてすぐにわかるはずなのだ。



(俺も逃げ時か?)



アイザックは公爵家では割とまともなタイプではあったが、親と妹と民に結構蔑ろにされて育ってきているので愛国心はかけらもない上に、民を慈しむ気持ちもなかった。

彼を助けてくれたのは昔のセドリックと今回のノエルくらいのものである。


国を捨てることを割と簡単に決めた彼は、神官の振りをしながら女神の使徒が多くいるとある公国へと行くことに決めた。

アイザックは昔の聖女の血筋でもあったので神官としての勉学もある程度修めていた。そのためか、順調に信徒を作りながら逃げ延びる事となる。


アイザックは割と信仰心が高かった。その事で敬虔な信徒を蔑ろにしたとして女神はそうっと、フォリア公爵領への加護を減らした。

その1ヶ月後、宝石と魔石が取れていた採掘場が崩落し、その後は魔石が全く取れなくなったりする。ノエルやアイザックはそこまでするほど怒っていなかったが、女神は順調に彼らへのヘイトを溜めていたため、意図せぬざまぁが生まれる事となった。しかし、その事を彼らが知るのはもっと先の話である。

ノエルたちが怒らない分、女神が神罰を与えている時がある。

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