第一王子が無茶をしている件
ガラテア王国第ニ騎士団修練場にて、勇者と打ち合う青年の姿があった……。
まぁ、復活しつつあるセドリック殿下なんですけどね。
というか、第二騎士団なんでこんな隅に追いやられてるんだろう。それを聞いたら、「セドリック殿下の部隊だったからな。殿下が居なくなって追いやられたのさ」と第一騎士団団長が言っていた。ちなみに彼が私とアレンを旅に出ても支障ない程度にしてくれた人である。ロイ・カーチェスの父の割にまともだ。「俺はフォリア公爵の派閥じゃないんだがな」と苦笑していた。息子、お前厳しいけどちゃんと言ってくれる父親にそんな顔させてんじゃねぇ。
「あー、もう!ノエル、そっちに回復かけるのそろそろやめないか!?」
「かけないと死ぬ人なので」
「そうそう。短期間で私の体力を戻すために協力しろ、勇者殿」
「こんな体力のつけ方があってたまるか!」
セドリック殿下の言い分はこうである。
元々武に優れているのは自分だから体力と実力さえ戻れば、王太子となる予定のクロードよりもスペアのスペアのスペアである自分が聖女に付き従うほうがいいと陛下が判断する可能性は高い。なので、ひたすら動いては回復させ、食べる、ちょっと休むを繰り返して無理やり体を鍛え直すという。
とんだ暴挙である。
おかげで回復魔法がやたらと上手くなっていく。聖女だからいいのか?神殿の人間の付き添い要らんのでは?
そして恐ろしいのは神様の加護を得ているとはいってもそんな化け物じみた王子様にある程度くらいついている勇者である。止めに入るために騎士団長なんかも来ているが、基本止められずそのまま動きっぱなし。それか休んでいる間は回復魔法をガンガンかけられて「まだやんの?正気?」と嫌な顔をしている。
「王子ってもっと優雅でお淑やかなのを想像してた。これ違う。これは何か違う」
「末端の王子なぞ役に立たねば飼い殺しか、政争の道具になって婿になるか死ぬかだ。そう良いものでもなかろうよ」
「まぁ、食うに困ることは無さそうだけど」
「代わりに食事に毒を入れられるだけだ」
「うっわ……勿体ねぇ。食い物粗末にするやつとか死ねば良い」
気が合っている二人を見ながらひたすら回復魔法をかける。
魔法の先生には「殿下の無茶に付き合うって?攻撃魔法あんまり向いてないみたいだからあっち優先していいよ。その方が勝率上がるし。あと、うちの息子思ったよりフォリア嬢に傾倒してるから候補から外すね」と言われた。教えてくれてたのクリスティ侯爵だったらしい。おかしいな。ケイト先生と呼べとしか聞いてなかったぞ。要するに息子の不始末をつけにきたのかもしれない。哀れ。
そんなわけでがっつり勇者と王子のヤバいレベル上げに付き合っているのだが、今までより魔力消費量が激しくて私の体力もガンガン奪われている。これも生存確率を上げるためである。命大事に。これ、異世界においての合言葉でいいと思う。
「相変わらずセドリック殿下は化け物じみた事をするよな。アレと比べられる俺たちの身になって欲しいぜ」
「わざわざ見にこられたのですね、カーライル様」
「アルトでいい」
いつの間にか第二騎士団副団長が背後からこんにちはしていた。セドリック殿下から紹介してもらったこちらの方はアルト・カーライルという。25歳らしい。この世界イケメンばっかだな。イケメンなのに取り巻きじゃないらしい。イケメンとは即ちフォリア嬢取り巻きだという認識をやめた方がいいかもしれない。最初がアレらだったから悪かったのだと責任転嫁をしてみる。
「ノエル、強化魔法もかけて。これをこれ以上相手にするの無理。打ち合うたびに強さが上がっていくのどう考えても化け物だろ」
「王子を捕まえて化け物とは無礼な。不敬だぞ」
「いや、常人はこんなヤバい復活方法考えつかないし、考えたとしても絶対にやらない」
勇者アレン、真顔である。
勇者にここまで言われる王子とは一体何なのか。
そもそも、貴族ですらこんな無茶は多分しないので言われてもしゃーなしかも。そもそも私ありきの方法だからできないだろうけど。あ、でもルイーゼ様とやらがいたらいけるのか?
思いついてアルト様に聞いてみた。とんでもなく嫌な顔をされた。その女、聖女なのか性女なのかはっきりしてくれ。
「あなたはフォリア公爵令嬢に会ったことがないのか?」
「ええ。どの方も会わない方がいいと言いますので」
私が彼女を傷つけるかもしれないから、というものと、私にああなられてはかなわないし悪影響だから、というもので理由は両極端だったけど。
「そうか。周囲の者たちは良い判断をするな。これからも会わない方がいいぞ」
どんだけだよ。