デートに邪魔が入った件
メーティスと腕を組んで街中を歩いていると、「治癒師!」と叫んでいる声が聞こえた。聞き覚えのある気がする名前だけど私以外にもいるだろうから無視していい?いいよね?だって久しぶりのデートだもの!
「おい!お前を呼んでいるのだ治癒師!!」
「人の妻にお前?」
振り向いたメーティスの顔がキリッとしてカッコいいのだが妻の欲目だろうか?
じっと見ていたのがバレたのか、メーティスは私を見て「怖かったかい?」と眉を下げた。
「いいえ。いつも通り、私の素敵な旦那様ですわ」
「ノエル……」
「ええい!!俺を無視してイチャつくとはどういう了見だ!?」
怒鳴るキャヴァリアさんに首を傾げる。
「夫婦なので問題ないのでは」
メーティスを見上げると、優しい微笑みが返ってきた。これは「君のいうことは全て正しいよ」の顔ですね。全ては正しくないぞ。
「ふん、落ちぶれて卑しい家の男に稀代の治癒師はもったいない。それ故に我が家にて囲ってやろうというのがなぜわからん」
「あら、メーティス今そんなに苦労しているの?」
「いいや。前よりもゆっくり休めている分体調も良いし、収入も君に苦労させないだけはあるよ」
「ふふ、そう。でも私はメーティスとであればちょっとくらい苦労したっていいのよ」
「いつだって君は僕の心を満たしてくれるね。僕の黒曜石」
「いや、聞け」
見つめ合っていると、ギャアギャアとうるさい声もどうでも良くなっていく気がする。
「なんだ、騒々しい。僕は今日妻との外出を楽しみにしていたんだ。去らないようならこちらにも考えがあるぞ」
不機嫌そうにキャヴァリアさんを見るメーティスに、彼は「ほぅ。侯爵家嫡子たる俺をどうしようと言うのだ?」と割と醜めの表情で言ってきた。
「いや、普通にこうするが」
指パッチンで足元が崩れ、彼の姿が消える。メーティスは魔法を最高の環境で学んでいるスーパーエリートだ。このくらい軽くやれるのである。
私も結構魔法上手だと思うんだけど、メーティスもやっぱり優れているんだよね。
「やだ、私の旦那様かっこよすぎでは?」
「君の愛らしさには負けるさ」
私のことをキュンとさせるのが上手い人である。そのまま腕を組んでお買い物をしたり、公園をお散歩したりしました。
あのキャヴァリアさんも良い家の人らしいし、そのうち見つけてもらえるでしょ。
という予想に反して暫く放置されてしまったお邪魔虫さんだったりする。




