女の子を拾った件
溜まった刺繍を寄付して、いい事したかもーって思いながらるんるんと歩く。サフィールに「奥様、離れないでください」と言われてちょっと歩くスピードを落とした。
「旦那様はこっちがドン引くくらい奥様が好きなので、何かあったら俺なんて余裕で首と胴体がお別れするんでマジで離れないでくださいね!」
「流石に理由も聞かずにそんな事しないわよ。メーティスは良い人だもの。でもそういうところも可愛い人よね、あの方」
「まぁ…奥様がいいならいいんスけど」
多少なら独占したいと思われている方がいいかなって。家にガチで閉じ込めようとするならお話し合いが必要だけれど夫婦喧嘩に攻撃魔法は有り?流石に腕っ節では敵わないんだよなぁ。よく考えなくてもメーティスが私を殴る時って絶対操られてる時だけのような気がするわ。私の旦那様は紳士なので!!
そんな事を考えながら歩いていると、走っている馬車から何か大きいものが路地裏方面に投げ捨てられようとしていた。嫌な予感がして風の魔法で衝撃を和らげる。捨てた連中は全く振り向かなかったのは幸運だっただろうか?性別が男ってくらいしかわからなかった。
近づいて見ると、顔のほとんどが何かで爛れた女性だった。
少なくとも、まだこうなってそう日にちは経ってないと思う。だってあからさまに私の「放っておいたらバイ菌入って死ぬぞコレ、正気か?」レーダーに引っかかっているからである。
治癒をね、得意にしているとね、慣れてくれば「コレ放っておいたらヤバい」って傷はだんだんわかるようになってくるのよね。なぜかしらね。女神様の加護かな?
「大丈夫?あらあら、膝も擦りむいて……私の家にいらっしゃいな。手当をしてあげましょうね」
「いえ、ですが」
「サフィール、運んで。絶対。落としてはダメよ。逃がしてもダメよ」
「承知しました」
私の笑顔を見たサフィールが戦場の顔になったので、私戦闘モード入ってるのかもしれない。あまり自覚はないけれど。
サッと女性を担ぎ上げたサフィールと一緒に家に急いだ。
家に戻ると、クロウが頭を抱えリナリアが唖然としていた。
「お前人間拾うの趣味なのか?」
「そんなわけないでしょう。ただコレは処置しておかないと後悔する気配がするのよ」
顔を誤魔化すために厚く化粧をしたのか、悪化して熱まで出ている。連れて帰ってくるまでに彼女はぐったりとしていた。
「リナリア。この方の顔の化粧が全て取れるまで汚れを落とす魔法をかけておいて。私は部屋からポーションを持ってくるわ」
「か、かしこまりました!」
私の旅における学びの一つ、聖女がいなくなっても大体なんとかなるようにしておく方が良いというものによって、あの聖地を出てからポーションの作成を勉強した。
過去の聖女が書き記してくれていた、という理由もある。一度買おうと思ったら高額すぎて金銭的に死ぬかと思った。曰く、ポーションは作れる人材が少ないから数も少ないそうだ。魔法で大体なんでもしてしまえることの弊害だろう。
そして、そういうものが作れる人間や、魔道具で生活を豊かにする人間をこの世界の人は錬金術師と呼ぶらしい。いえ、私聖女ですけど。
持ってきたポーションをクロウと一緒に部屋に運び入れると、最初の見た目よりも大分酷い様子の傷が露出していた。
…ちょっと臭うな。
「リナリア、ありがとう」
「いえ、奥様のためですから」
下がってもらって口にポーションを少しずつ突っ込む。
荒い息が落ち着いて来た頃を見計らって私は治療を始めた。
「あ、旦那様が帰ってきたら教えて。少しでも顔がみたいわ」
お仕事に出ちゃうと昼間に顔が見られないのが寂しいとこよね。
ノエルのおかげで女神様の信仰は地味に厚くなっているので、女神様もにっこり。




