夫の友人が来た件
冒険者ギルドのスライム討伐依頼を達成して家に帰ったら豪勢な馬車が止まっていた。何だこれ。
家紋みたいなのが刻まれてるしおそらく貴族。うーん、なんか淑女教育とかいうやつでガラテアの貴族は多少覚えたけど、この国は知らないな。というかそんな時間なかった。
家に入ると、メーティスが怖い顔をしていた。なんでさ。
「ああ、もしかして君がメイの奥方かな?」
そう話しかけてきたのは、従者を連れた一人の青年だった。紺色の髪、エメラルドグリーンの瞳。
精悍な顔つきに好奇心に光る瞳が印象的だ。
ちなみに、話しかけられた途端、魔王討伐メンバーの聖女なのに心配しすぎてスライム討伐しか受けさせてくれない私の旦那様の眉間の皺が深まった。本当になんでだろうね……。
「はい。ノエルと申します」
控えめに微笑むと、彼はふむ、となにかを考えるように止まった。そして、気持ちが固まったのか一つ頷いて、一歩下がる。メーティスが溜息を吐きながら、「ラティス」と厳しい声音で青年を呼ぶ。
「メーティス。お前、過保護過ぎやしないか?」
「妻を心配してなにが悪い」
「まあいい。ノエル嬢、私はラティスフォード・アインス・ラビニアという。聖女殿が我が国に居を移してくださったことを光栄に存じます」
ラビニア、の名で時が止まった気がした。メーティスを見ると困ったような顔をする。
「ラティスフォードは僕の友で…この国の皇太子だよ」
皇太子が!簡単に!!市井に現れるんじゃありません!!!
いやでもメーティスの友だからセー…どう考えてもアウトでしょう。私たち王子様が現れた家に住めるのか?
「そんなに固くならなくて結構。聖女殿は我々の利権を超えた存在だ。むしろ、世界に唯一の女神の寵を得た尊き人。メイの奥方でなければ求婚をしたかったくらいだよ」
「やはり出ていけ。僕の妻を見るな」
「お前の嫁を取る気になんてならん。引き込めなくなるだろうが」
呆れたような顔をして、彼は紙を広げる。
「メーティス、我が国の魔法省で魔道具開発にて生計を立てるつもりはないか?無論、それなりの給金は出す。お前にとっても悪い話ではないはずだ。何せ、奥方を働かせなくても良いくらいの収入にはなるはずだからな」
「……そういえば、この国は能力さえあれば民族も種族も爵位も問わないのだったな」
「国に帰るつもりはないんだろう?私としても、お前がいてくれれば魔道具の発展が進み、さらにお前のそばに居て下さる聖女殿の滞在で国が豊かになる。万々歳だ」
そういえば、私がいるとこって基本飢えないって聞いたもんね。それもまた女神の加護らしい。神殿で習った。
そこまでしてもらっているのにあの扱いだったのは解せない。
でも、それが本当だって知ってたらメーティスではなく王様に娶られて国を出られなかった可能性もゼロじゃないので知られてなくて良かったです。
「お前にちょっかい出す女も、聖女殿に声をかける不埒な男も、必要があればこちらでなんとかしてやるから私と来い、メーティス」
「……乗った。ただし、その約束を守らなかった場合は出て行く」
「わかった。奥方も誓約書は必要か?」
「いいえ?」
にっこりと微笑んで見せると、メーティスとクロウの顔が引き攣った。他の人間は怪訝そうな顔をしている。
「だって、私のメーティスに手を出されたら国ごと滅ぼせば良いだけの話ですもの」
私の最後の良心メーティスを奪う人間がいる国なんて必要ないし、ガラテアは旅をしたりして情が湧いちゃったけどこの国のことはなーんにも知らないので基本今は何やっても罪悪感薄いと思うし。…でもやっぱりちょっとくらいは後悔するかもだけど。
住むうちに躊躇しちゃうかもだけどその場合は王侯貴族だけを集中的に呪うので。
ふふ、と笑えばラティスフォード殿下は真顔になっていた。
「心得た」
じゃあ、オッケーです。メーティスのことよろしくお願いしまーす!




