狙われている件
褒賞(笑)という王命で結婚したのであんなに真っ直ぐ気持ちを伝えられると思っていませんでした。
仕方なくない?自分が並だってわかってる人間が「私の身体でメロメロにしてやるぜ!」「私の魅力で籠絡してやるぜ!」とは中々思わない上に性格がどうあれ、城にいた女性は殆ど美人だった。採用基準に容姿も関係あるのかと思ったレベルである。
自分に興味がある、とか考えるのも烏滸がましい。
とはいえ、メーティス以上に私を思ってくれる男性とかいるのかな?アレンといい、セドリックさんといい、「俺たちの妹」って感じだったので向けられる感情の方向性が違うっていうか。
そんなことを考えながら庭に果実の苗を植えていれば、結界に何かがぶつかった。
引き続き、ゴンゴン鋭利なものを投げつけられている。
更に結界を強くして水をまけば、濡れた地面に足をとられたような音が聞こえて、そちらに雷の魔法を落とす。
当たった感じがしなくって警戒を強めていれば、一瞬重い音が聞こえて、倒れるような音が聞こえた。
「この程度の魔力で聖女狙うとかアホかな」
ズリズリと地面を引きずりながら男が連行されてくる。
そして、呆れたような顔をするのはクロウである。
「口に布かましてはいるけど、情報引き出すならさっさとやっちゃった方がいいかもね」
「街道を浄化しながらきたのは失敗だったかしら」
「あの道、すでにまた瘴気が濃くなってきてるから放っておけばまた陸の孤島に逆戻りするはずだけど。そうなるまでは一人にならない方がいいよ」
そう言われて頷くと、がさりと物音がして振り返る。
裏切られたような顔の旦那様がいた。
「ノエルの旦那さんこんばんは。昔助けられた暗殺者です」
空気を読まずにキラキラ笑顔でそう言うクロウ訳わからな過ぎて二度見した。
そもそも弟と同じ顔というだけであからさまな美形なのになんで暗殺者とかしてるんだろう。家業かな?
「昔、助け……えっ……」
「あの。順を追って説明してもよろしいですか?」
手を挙げてそう言うと、メーティスは静かに頷いた。
魔王討伐の旅から今までのことを話し終えると、難しい顔をしながら名前を呼ばれた。
「そんな怪しい人物をなぜ助けた」
「いえ、弟と生き写しなんですよ。本当に」
その言葉に胡乱げな顔をされて、ムッとする。学生鞄に入れたままにしていた写真の中から、家族写真を取り出して見せる。両親と弟と私が鮮明に映ったそれを見て彼らは驚いた顔をする。
「私の両親と弟と…こっちが私です」
「君は…父親似なのだな」
「正直に母に似れば同じような顔の美少女だったのにと言ってくれて構いませんよ」
地味顔は父親に似たのだ。おかげで弟と並んで歩いてもあんまり姉弟と思われない上に弟が友人に揶揄われるものだからものの見事に避けられるようになった。
もう揶揄う奴はみんないなくなれ。あ。私の方がいなくなっちゃったんだった。
「そうか。それだけの仲か……」
「信じるんですか?」
「僕がノエルを信じなくて誰が信じるというんだ。そもそもあくまで弟だ。知ってしまった以上は離れてもらうが、思想にまで関与するのは流石に過干渉だろう」
「そもそも俺にだって女を選ぶ権利がある」
懐かしい感じだなぁと見ていると、リナリアが「聖女様の弟ならあんなこと言わないのでは」と言うのだけど申し訳ない。
「いえ。私の弟もあんな感じです。むしろ本当に身内な分もっとあたりはキツいですよ。今となっては懐かしいものだけれど」
写真を手に取りながらそう言うと、なんでか感極まって泣いてしまっていた。私もちょっと泣きたい。
ちょっとした修羅場である。




