新米夫婦が頑張っている件
「起きてくださいな、メーティス」
隣に眠る夫を揺すると、ゆっくりと瞳を開く。
「おはようございます」
「おはよう、ノエル」
ふにゃりと笑うメーティスがなんか可愛くってつい早起きしてしまうのだ。
……まぁ、夜の夫婦生活してないからできるんだけど。やってたら絶対早起きなんてできないと思う。
二人で初夜の後に話し合った結果、初夜は決まりだし今回で子どもができたら仕方ないけど、それ以外は生活が安定しないからやめとこうねってなったのだ。世知辛い話である。公爵家になったのに。
私はいいんだけど、メーティスは大変かもしれない。こういうのを生殺しというのだとサフィールが言ってたから。ところで生殺しとはなんだろう。
ちなみに月のものきたので子どもできてません。こっちでは普通らしいけど、10代で子ども作るっていう価値観がそもそも合わないの辛い。
メーティスを起こして質素な朝食を終えた後、私たちは馬に乗って出かける事になった。
屋敷周辺を浄化して食べ物の栽培を始めるのである。
人いないのって?いないねぇ……。なんというか、本当殺すつもりでこっちに寄越したんだろうなぁって思ったりとかちょっとだけしちゃうなぁ。
まぁ、褒賞だから私の生きている間は税金とか納めなくていいみたいなことを言ってたから呑気なものである。個人的にはもう何もなければスローライフ万歳としか言いようがない。
私が地面を浄化すると、メーティスが魔法で土を耕した。夫婦の共同作業である。あまりにも色気がない。
とはいえ、必要な作業なので二人で黙々と続ける。サフィールの「農民からしたら羨まし過ぎる技能…」という呟きがたまに聞こえる。
ふと何とはなしに隣を窺うと、こちらを見つめるメーティスと目があった。
「あの、どうして私を見ていらっしゃるのですか?」
「可愛いなぁ、と」
どこをどう見たら可愛く見えるかはわかんないけど、これたぶん本気で言っている。
かぁ、と顔に熱が上る。こんなに素直に褒められることってそうないし。
「もう、メーティス様ってば」
顔を見て睨むと、顔を手で覆ってそっぽを向いてしまった。
何なんだこの対応は!?
「僕のお嫁さんが可愛過ぎるのでは?」
「安心してください。殿下の目にしかそう見えてねぇです」
サフィールはそう言うけど、ずっとこんな反応されてると私稀代の美少女になった気分だ。メーティスがガチのイケメンだからかもしれないけど。
そう、メーティスかっこいいのだ。確かに正統派王子様クロード殿下とか軍服が似合うワイルド系セドリックさんに比べれば地味かもしれないけど。
でも、堅実そうで誠実なのが普通に一番なので私にとっては一番です。
いやもう、常識で考えてよその女に夢中な男とか嫌だし、限界ストイックもたぶん私音を上げてただろうなぁって。
「何故だ。こんなに可愛らしい女性は他にいないだろう?」
うう。純粋な愛情が申し訳ない……打算で生きている私には眩しいが過ぎる……。
動かしやすいとか利用しやすいとかで考えられるほど悪女も極めてないので。
誰だよ、メーティスのこと冷たいとか言ったやつ。変な嘘はすぐバレるんだからやめてくれ。
「殿下、もしや真面目で勤勉な女子が好きだからそちらガン振りの聖女様に目が曇っていらっしゃる……?」
「失礼な男だな。お前は。黒曜石のような瞳も、艶やかな黒髪も、誰かを助けるために迷いなく差し出す手も何もかもが愛おしい。コロコロと変わる表情は愛らしく、一瞬だって目を離したくない」
ガチ度に本気でどこで好感度爆上げしたんだろうと思う。気を失うほど気が弱くない自分がちょっと恨めしかった。
「あなたが僕をどう思っているかはわからないけれど、少なくとも僕はあなたのことを愛している」




