魔法が便利な件
お家の部屋をとりあえず使うところから綺麗にしていった。
リナリアが強く勧めるので夫婦の寝室と個人の部屋をサクッと綺麗にすると、メーティスは「なんて便利な魔法なんだ。すごいな、ノエルは」と私の頭を撫でた。ふふん、どうだ!
異性から頭を撫でられるというのは結構好感度を上げてからでないと気持ち悪いと聞いたことがあるけど、メーティスは初めから腹立つこと言わないしない良い人だったのでそれだけで好感度高いです。
この世界の人間、最初に出会った人があれらだったので私の好感度メーターバグってる可能性はある。
夫婦としては初心者マークな二人だからこれから頑張らないとだけど。でも、私のこと大好きっぽいメーティスに絆されているのも事実だ。どこで彼の好感度上がったのかまるで見当がつかない。
「疲れていないか?僕にも出来ることはないかな」
「大丈夫ですわ。けど、そうですね……荷物を運んで置いて頂けますか?」
「ああ。わかったよ」
玄関に置いた荷物を取りに行く後ろ姿を見送る。
せっせと世話を焼いてくれる旦那様、世間一般的にはめちゃくちゃ羨ましがられるやつでは?ただ真面目すぎて邪魔な女と辺境に飛ばされてるだけで。可哀想だな、メーティスも。王都にいれば女なんて選り取り見取りだっただろうに。
真面目だからそんなことは考えないか、と考え直して屋敷をクリーニングしていく。ホント魔法って便利。
リナリアが知りたそうだったので教えてあげたらすぐにできるようになった。
「リナリア、すごいわ!私はこんなにすぐにできるようにならなかったのよ?」
「そんな…!奥様の教え方が良かったのです」
恥ずかしそうにするリナリア本当に可愛い。というか魔法の才能がすごくあるのかもしれない。旅に出るのに必要な魔法とか剣術の訓練の時リナリア同席無しだったので、一回教え込んでみようかな。リナリアは裏切らなさそうだし。
二人でやり出したらお部屋がすぐに綺麗になっていく。
そして、外の見回りに行ってくれていたサフィールが戻ってくると驚きの声を上げた。
「こんなに綺麗になるもんなんスね」
「僕の妻は凄いだろう」
「殿下は何をなさっておいでで?」
「荷物を各々振り分けて運んで置いた。荷は流石に開けていないぞ。見られたくないものもあるだろう?」
王子様に荷物を運ばせた事に頭を抱えたサフィール。
サフィールは平民から軍に入った青年で家族は両親と兄と妹。商会を営んでいるそうで、実質的な本拠地は現在は他国であるそうだ。実質的な、ということはおそらく名目上はこっちの国で商売頑張ってますよっていう事にしてるんだろう。
妹の病気を治そうとあちこちを転々としているうちに、家がそこそこ大きくなっていたらしい。…逆はよく聞くけど珍しいパターンだな。
結果として治したのが私だったものの、余りにもな扱いもあってか、彼の家はこの国から出て行くことにしたんだと。陛下におこらしい。
「そういや、妹も病気が治ったおかげで結婚しました。聖女様様ですよー!」
「あら、おめでとうございます」
「そこですかさず金の話題出さねぇとこが好きです」
「好き……?」
「ちがいますちがいます。人としてっつーやつです」
メーティス、ちょいちょい地を這うような低い声出すけどどっから出てるんだろうその声。
「ヤキモチ焼きですねぇ、私の旦那様は」
「あなたほどの素晴らしい女性と婚姻を結べた幸運を思えば、不安になってしまうのも道理だと思う。その瞳に映るのが僕だけならば、なんて。流石に無茶だとわかっているけれど」
「そんな事を言ってくださるのはあなただけですわ、メーティス様」
「ノエル……」
見つめてくる瞳に視線を合わせると、二重に咳払いの音が聞こえた。
「二人の世界に入るのは褥の中だけにしてください」
「独身者にはちょっとそれ見てるのキツいです」
褥はセクハラでは……?頬が熱くなるのを自覚しながらメーティスを見ると、彼の顔も真っ赤だった。




