聖女と呼ばれた悪役令嬢
自慢の金色の髪に触れられる。
その相手は王子様。
悪役令嬢、ルイーゼ・フォリアとは私のことだ。
愛を捧げてくれる王太子も、騎士団長の息子も、魔術師団団長の息子も、将来の大神官も。攻略対象者はヒロインのノエルが来るまでにみんな攻略しておいた。
転生前の私は乙女ゲームが好きな女子高生だった。ある日、帰り道であのいけすかない女が魔法陣のようなもので攫われるのを目撃した直後にトラックに轢かれて死に、そして転生した。
好きだったゲームの世界に転生したことは嬉しかったが、よりにもよって悪役令嬢としての転生だったことにはがっかりしたけど、逆に考えると知識がある分ヒロインに比べてリードしていると思うことにした。
幼くして正妃の息子であり王太子になる第二王子の婚約者候補になった私はまず、クロードを。その次に側近候補だった三人の孤独を癒し、好感度を上げていった。
結果として、私は彼らの心をちゃんと掴むことができた。
魔法だって適性は癒しと浄化。そのうちに聖女という呼び声が高くなった。
魔王討伐にも行こうと思っていたけれど、お父様は過保護だから許してくれず、結局ヒロインは呼び出されてしまった。その女があまりにもあの時の立花ノエルと符合する。
ルイーゼとなる前の私は、あの女と一時仲が良かった。けど、少し弄ってやったことをきっかけに離れて行った。多少可愛いと言われたくらいで調子に乗ったあの女が悪いのに。
挙句、私と仲が良かったことなど忘れたようにギャルのグループにポンと入っていた。名前を揶揄ったくらいであれだけ怒るなんて大袈裟なのよ。
呼び出されたノエルは大人しいものだった。儚げに見せて周囲の同情を誘い、まんまとセドリック様やアレン様を侍らせた。
セドリック様があんなに格好良くなるなんて予想外だったのだから仕方がないわ。セドリック様、昔はまんまるで冴えなかったし、ちょっと前までは呪いで死にそうだったんだから。
旅に出てしまえばお父様の独壇場だった。
私にやたらと厳しく当たるメーティスを放り出し、アレンと王女の婚約を決め、セドリック様に婚姻の打診が来るやそちらを推した。
本当にいい気味!!
歌い出したくなる気分。
メーティスとの婚姻に瘴気で何もない地域での生活なんて碌なことないに決まっているわ。
「今日も君は可愛いね」
蕩けるような微笑みに微笑みを返す。
本来あの子のものだった彼。
愛しい幼馴染の一人。
みんな私のもの。
旅をする中で出会うはずだった美しい暗殺者だけは攻略できなかったけれど。
あの女の弟に似ているから侍らせればさぞかし気分がよかっただろうなって思うと残念。
お兄様は病気で蟄居させられているし、これで公爵家の方も私の権限を大きく残せる。
真面目なだけの男って嫌よね。
決まり事で雁字搦めにして自由にさせてくれないのだもの。
クロードたちが私を愛してくれるのだから、今のヒロインは私に違いないわ。
なら、何をやったって悪い方向になんて転がりっこないの。
自分が破滅する悪役令嬢に転生したけどざまぁして幸せになりました、みたいな内容の愛されヒロインなんて最高よね。
せっかく美女に生まれ変わったのだからもっとたくさんの男性と遊んでみたいけれど、お父様は王太子妃になってからでなければ考えてはいけないよと言っていた。クロードと結婚して処女であることを証明してからでないといけないのですって。
そのくらいなら大したことではないわ、と心の中で嗤う。人生勝ち組なのだし。
生意気にも聖女だなんて呼ばれたあんな女、何もないところで野垂れ死ぬだけだもの。もう気にすることないわよね。




