合流できた件
「戻りました」
ちょっと休んで完全回復してから勇者一行を追いかけて、追いついた。主にセドリックさんがめちゃくちゃ疲れた顔をしていたけどなぜ。
よくわからないままふわりと微笑んで見せれば、「おかえり!」とナージャさんが抱きついてきた。
「どなたですの?」
可憐な声が聞こえてそちらを見ると、白いローブをきた可愛らしいお嬢さんがいた。
「我が国の聖女で私の婚約者だ」
セドリックさんに腰を引き寄せられて、目を合わせて微笑む。あ、なんかやりやがったな。
キッと私を睨む少女とその後ろの騎士?殿。
もうなんか嫌な予感しかしない。
「ガラテア王国にて聖女の任に就いております。ノエルと申します」
「わたくしはウィステル・アルバ・ノーチェ。ノーチェ王国の第一王女です」
「姫様!」
「仮にも、勇者に随行する聖女殿です。身分を詐称する方がわたくしたちの誇りを穢すというもの。お黙りなさい、エスタシオン」
ウィステル、と名乗る少女は隣国の王女殿下らしい。セドリックさんを見ると、「本物だ」と小声で告げられる。マジで?
「何故、隣国の王女殿下が我が国に……?」
「そなたに発言の許可を与えたつもりはありませんが」
「失礼いたしました。私はガラテア王国第三王子メーティス・クロヌ・ガラテアと申します」
「まぁ、失礼いたしました。この場に王子殿下がいらっしゃるとは思いもしませんでしたから」
「他の兄弟に比べて地味なのは承知しておりますが、他国で不用意な発言は災いの元ですよ。近日中に我が国へ来訪するという報せも知りませんが」
優しく真面目で誠実な王子様だと思っていたメーティス殿下の目線が表情の割にめちゃくちゃ冷え切っていてこれ誰状態である。
アレンに目を向けると、「何驚いてるの」と呆れたような顔をされた。
「報せていませんもの。わたくし、婿探しの旅に出ているのです」
「婿探し」
「ええ。わたくしの隣に並び立つ強く聡明な殿方……。そしてわたくしは見つけました。ねぇ、ノエル。セドリック様をわたくしに譲ってくださいな」
スペキャってしまった。背景に宇宙背負った猫ちゃんと同じ顔をしていたと思う。
「譲ってくださいな」ってなに?
私は今何に巻き込まれている?
人身売買をする趣味はないよ?
意味が分からなさすぎてセドリックさんを見れば、「まぁ、普通はそういう反応だよな」と溜息を吐いた。
「譲れも何も……セドリック様はものではございませんので……」
「あら、でもあなたがセドリック様に相応しくないことは理解しておいででしょう?」
「……我らを救ってくださった聖女様を愚弄するならば、早々に国へ戻っていただきますよウィステル殿下」
地を這うような低い声からは殺気が見え隠れする。メーティス殿下こんなに怒る性格でしたっけ。
隣を見ると、セドリックさんも目が笑ってなかった。おこである。おこの最上級なんだっけ?ともかくめちゃくちゃお怒りである。
「……我が恩人であるノエルに対して、何という言い様だ。一国の姫が聞いて呆れる。お前などと婚約を交わす事などありはしない。他の男を探せ」
「何故です。私とあなたで二国間の架け橋になることで及ぼす効果を否定は出来ないでしょう?なのに、戦いが終われば何の役にも立たない聖女を側に置く意味があって?」
「役に立たない、だと?」
「ああ、そうね。教会に閉じ込めておけば良いお人形にはなるのではない?それに……国へ帰ってあなたの身柄を強請れば、話はすぐに済んでしまう話なのよ?」
この世界の王族って一部を除き頭イカれてんのですか?いや、正直な王族の感想ってこれかな。人気取りで聖女と婚約を望んでいた王様だけれど、他国のお姫様と結婚の話が来たのならそちらを優先しちゃうかもしれないな。
……穏便に幸せになりたいだけなのにどうしてこうなる。いや、相手が王族なのが悪い。わかってるけど私の人生潰しといてどっかの貴族と結婚させて愛されもしない結婚生活送らされるのも納得いかない。
「魔王城まであと少し。魔王を倒すまでにはわたくしに夢中にさせて差し上げますわ!」
心が強いな、ウィステル殿下。
ところで、別れる時にメーティス殿下が跪いて私の手を取り、手の甲に唇を落としたのがガチの王子様でときめいちゃった。
ここでお別れなので無事に家に帰って欲しいものである。




