前聖女の日記を盗んできた件
神殿を出るまでに日本語で書かれた日記と思しきもの全て盗んできました。どうせみんな読めないし、長い間放置されていたので何があったか確実な証拠はない。元の世界みたいに監視カメラあったら別だけど。
旅をしながら、日記を拝見していると色々なことがわかった。
まず、本当に帰る方法はない。理由は日記をつけていた女の子の聖女時代に当時の王太子(聖女を愛人にと狙っていた)が目の前でそれが記された書物を燃やしたらしい。当時の聖女はそれはもうキレて、王太子の種が無くなるようにと女神に願った結果、役に立たなくなり廃嫡されたとある。
後に聖女は当時よくしてくれた騎士と結婚し、それがフォリア公爵家の最初みたいだ。
いやぁ、それであの子孫ってことはこれ口伝も何も伝わってなさそう。
そして、歳を取って夫が死に、家を息子に譲ってから彼女は神殿に来たようだ。
まぁ、出るわ出るわ王族の悪口。
娘を嫁にと請われれば「殿下のものも不能にいたしましょうか」と返し、息子を預かると言われれば「それでは城を燃やします」と言ったらしい当時の聖女、めちゃくちゃ王族が嫌いである。
あと、当時から王族はクソである。
帰る方法がガチで無くなっているようなのでやはり生活基盤をなんとかしなくてはいけない。セドリックさんだって私が好きなわけではないので、いつどうなってもおかしくない。
他所の国どんな感じかなぁ。この国よりマシなんだったら国を出たいよマジで。
隙間時間に飛ばしながら読んでるだけだから、まだ読み進めたら別の記述があるかもしれないけれど、今はそこまで時間がないから仕方がない。
旅は私の心情なんて気にせずに続くようだ。
はじめにいた王城から、だいぶ遠くまで来た。
道も半ば、というところか。
それまでに倒した魔物の数なんてもはや覚えてないし、凄惨な光景を見ても今の私は吐かないし、大丈夫ですかと微笑みながら魔法を使うことができる。これですんなり日常に戻れるのだろうか、と少し不安になってしまう。
ひたすら魔王城を目指して進むけれど、魔物にも害意があるものとないものも有り、害意を持たぬものでも討伐対象になるところをみると、私たちの方がよっぽど悪ではないだろうか、と感じる時もある。
正直結構メンタルにクる。
でも、私以外は平気な顔に見える。
きっと私もそういう平気そうな顔に見えるだろう。
「どうした、ノエル。疲れたか?」
「いえ、大丈夫です。道を急がねばなりませんしね」
「丁度あちらに屋敷があるようです。休ませてもらえるか尋ねてみましょう」
そんなに疲れた顔をしているのかしらと頬に手を当てる。元の世界にいたときのものはほとんど王城に置いてあるけれど、手鏡くらいは持ってきてもよかったかもしれない。
そう思ったけれど、首を横に振ってその考えを振り払った。
曇りのない、装飾のついた鏡なんて、貴族くらいしか持っていないときいた。そんなものを気軽に出すわけにもいかないだろう。荷物になるだけだ。
「やっぱり、ここまで来ると疲れが出てくるよねぇ。私もヘトヘトぉ〜」
「旅慣れてなかったらそうだろうな。むしろ、一番こんな強行軍をしたことがないだろうノエルが文句も言わずに黙々と歩いてる方が偉い」
「そうよね!お姉さんがヨシヨシしてあげましょうか?」
そう言ってくるナージャさんは返事を待たずに私の頭を撫で回している。
それを見ながら苦笑するアレンとセドリックさん。
なんやかんや歩いていると、アルトさんが向かったはずのお家にたどり着いた。
……ホラーでよく見る系の洋館なんだけど平気?
「そこはかとなく、陰湿な悪意の気配がしますね」
ちょっと瘴気が漏れているけど、それほどでもないのが逆に怖い。
「こういう館って、割と庶民の話ではお化け屋敷とか女子供の消える家って伝わるんだけどどうなんだろうな」
「その手の噂話の正体はだいたい魔物が棲みついてそうなるか、奴隷商の塒になっているかだな」
「よくある話よねぇ」
何この異世界恐怖話。
もうやだ帰りたい。




