まさかの出会いがあった件
教会でやった通りに祈りを捧げると、ダンジョンだった場所は清らかな気配に満ちていく。せっかくの綺麗な場所なので念入りにお願いしますと女神様にお祈りしておく。
ついでに私の幸せもお願いしますと黙ってお祈りしておく。
声に出さなきゃ気づかれないのである。あは。
それにしてもどうやっても外せない聖遺物とやらを身につけて以来力が増している気がする。
……これ教会に軟禁ルートじゃない?平気?
「主よ。我らの願いを聞き届けくださいませ」
止めとばかりに広がっていく神力で神殿が満たされると、神官たちは感嘆の溜息を吐いた。
いいから手伝ってください。頼むから。
それが終わると、この神殿を再びこの地域の本拠にしようと神官たちが働き出す。その裏で何かが動いた気配がしてそっと近づいた。すると、少年が血を流しながらズルズルと逃げようとしている。
「どうしたの?」
なんで今まで見つからなかったのかな、と疑問に思いながらも声をかける。ビクリと跳ねる身体。怯えるように振り返った彼の顔はまさかの弟と似ていた。
驚いて、時が止まった気さえした。
そんな彼は私の腕を引っ張って奥に引き摺り込む。するとそこには、蛇を倒した後の探索でも見つからなかった部屋があった。血溜まりを見るに、彼はここに居たようだ。
「誰にも、俺がここに居たってことを言うな!じゃなきゃここでお前を…」
「わかった。言わない」
「……は?」
「その代わり、治療させてね」
あまりにも顔が似過ぎていた。関係ない怪我人なんてどうでもいいだなんて思えないくらいに。
なるほど、世界には顔の似た人間が三人はいるというのもあり得る話かもしれない。
首に刃物を突きつけられながら、彼の腹部に手を軽く伸ばした。
治れ〜と念じながら魔法を使う。
完治した、という感覚があって手を引っ込めると、彼は戸惑ったように「なぜ」と呟いた。
「勝手な理由で治療してごめんなさいね。あなた、私が生き別れた弟にお顔がよく似ているの。こんな形で練習した成果を喜ぶ日が来るなんて思わなかった。ありがとう」
「……助けて礼を言うなんて変な奴」
ぷいと顔を背ける仕草もなんとなく小さな時の弟に似ている。まぁ、今はもうそんな可愛げも失せた可愛くない弟だけれど。こんなところで思いもがけず家族を思い出せたことには嬉しく思う。
元の世界にいた時は居るのが当然過ぎて「可愛くない弟」だと思っていたけれど、今会うと嬉しくて泣いてしまうかもしれない。なんやかんや気にかけてくれたりもした血の繋がった家族だったから。
ああ、やっぱり帰りたいなぁ。
「もうこんな怪我、しないようにね。危ないところに行っちゃダメよ」
「弟に似てるらしいからって姉ぶんな」
「ふふ、ごめんね」
「謝ってるけどなんかイマイチ分かってる気がしねぇな…」
ついでに、血で汚れた服を2人分綺麗にする。綺麗になぁれ、って魔法を使うとパッと元に戻るところが最高だ。染み抜きいらずである。
「なぁ、アンタ。名前は?」
「私?私はノエルというの」
「そ。ノエルも気ぃつけろよ。色々」
そう言って彼は階段を指差す。
「そこ、真っ直ぐ進めば書庫に着く。それからの道はわかるか?」
「ええ」
書庫、こんな隠れ家みたいなところに繋がってたのか。祭壇にも繋がってるし隠し通路って意外と多いものなのかもしれない。
「俺の事を誰にも言わないという約束だけ守れ。何か言えば殺す」
「わかったわ」
訳ありなのね、と呑気に考えながら頷けば、彼は溜息を吐いた。
「他人をすぐに信用するんじゃねぇぞ」
「あら。私、警戒心はすこぶる高い方よ」
「嘘つけ!」
叫ぶ彼に手を振って、そのまま進むと本当に書庫の机の下に出た。その扉を隠して机の上を見れば日記のようなものがあった。
その表紙に書いてある文字が日本語だったものだから、私はついそれに見入ってしまった。扉を開ける音が聞こえて咄嗟にそれを空間魔法で収納する。
「こんなところにいたのか。探したぞ、ノエル」
「ごめんなさい、セドリックさん。ちょっと見て回りたいところが多くって」
「そうか。ならば、これからは一声かけていってくれ」
探検したいなんて漏らしておいてよかったと思いながら微笑んだ。




