聖女を頑張った件
次の目的地にたどり着くと、聖女スタイルに変身することになった。場所が場所だけにその方が受けがいいのである。
受けがいいって案外大事なんだよね。待遇に差が出るから。
なんか「聖女様ー!」と呼んでくる子どもがいたから手を振ると涙ぐんでいた。なぜだ。
「よくぞ!よくぞおいでくださいました!!聖女様!!!」
「聖地ブルーエーゲへようこそ!!」
聖地とはなんぞや。
後ろを恐る恐る振り返ると、セドリックさんが説明をしてくれた。
「ここは遥か昔王都だった場所だ。そして、女神に請われた初代聖女様が降り立った地と言われている。故にテティシア教の聖地と呼ばれている」
そんな土地放置したのかぁ、としみじみしてしまった。おそらく可哀想なものを見る目になっていた。セドリックさん達に「やめろその目!」と言われたところを見ると言わんとすることはわかっていただけた感じである。
アレンも心当たりがあったらしく、ポンと手を叩く。
「ここだな。似非聖女が『わたくしの浄化できない場所など聖地であるわけがない』ってキレたっていう」
「えっ…流石にそんなこと言わないでしょう?」
ね?と振り向けば、アルトさんが「言ったな」と言い、ナージャさんが「聞いたわね」と言い、セドリックさんは「そういえばクロードから聞いたな」と言った。
自分が浄化できないから聖地じゃないってどんな理屈なわけ?いやもうそんなので聖女とか言ってたの痛すぎるんだけど。
「なんかあの女、自分が聖女であるっていう自信がやたら強いんだよな。そのくせ努力はしないしすぐ人のせいにするし、いざとなったらすぐパパ頼りだ」
「不敬罪で捕まりますよ」
「悪口言われてすぐそんな反応を取るなら王妃どころか王子妃としても不適格だろ」
鼻で笑ってみせた勇者マジでルイーゼさん嫌いだな。私も好きじゃないけど。そんなに聖女やりたきゃ死ぬ気で旅してみろ。いつでも代わってやる。
というか突撃してきた割に本気で旅出る気なかったっていうのは知ってんだからな。あなたメイドや侍女からはめちゃくちゃ評判悪くなってるのもうちょっと気にした方がいいよ。みんな、なんかルイーゼ情報とやらを教えてくれるから。
「件のダンジョン化した神殿もなのですが、そのあと移転した神殿の方も浄化の光を灯していただくことは可能でしょうか?」
「もちろんです。私は世界の浄化のために主より遣わされたのですから」
そう言って祈りを捧げるように指を組んだ。そして微笑む。
そうすると、感動したように神官達は涙ぐんだ。
案内されるままに神殿へと向かい、地元の皆様や神官に見られながら浄化を行う。半信半疑の目を向けられるのはきっと高名なルイーゼさんが失敗しているからだろうか。
「女神テティシア様、我らに光を与え給え」
ふわりと光の粒子が周囲を舞い、それが神殿全体へと広がっていくと、次の瞬間には大きな歓声となった。
「本物だ!」「聖女様が再臨された!」「女神様ありがとうございます」と勝手な声が聞こえる。
「また我らの神殿に清き光が灯ったことを嬉しく思います」
みんなボロボロ泣きすぎだろうと思うけれど、セドリックさん曰く、ルイーゼさんが挑戦したのが去年でこの神殿から光が消えたのが10年前なので神官達の感慨もひとしおなのだそう。
神殿を出ると、小さな兄妹にお花をもらってしまった。邪気のない幼な子に「ありがとうございます」と笑ってお礼を言う。淑やかに微笑むとそれだけで嬉しそうにする子供たちに健康のおまじないをしてあげた。元の世界と違って医療体制が整っていないので。それを考えると帰りたい気持ちがまた盛り上がってしまう。こう見えても、私が好きなのは安全と平穏なのだ。
とりあえず、今日はこの街に着いたばかりなので宿にお泊まりすることになった。
そこで、「サクッと女神様の神殿取り戻して次に行こうぜ」と雑にアレンが言い出した。いやできるならそうするけども。
しっかりお休みして、翌日に神殿に寄ったらダンジョンになる前の神殿の地図を頂いた。
善行はやはり積んでおくのが正解だったと言うことだな。私はちょっとだけ嬉しくなった。
ところでやたらと睨みつけてくる神官なんなの?こちとら聖女やぞ!
あ。もしやルイーゼ派?いやそうだとしたらごめんね。私の方が神力に限れば高いので。
それはともかく、早く神殿浄化しないとなぁ。
あと割と目を背けがちなんだけど魔王、ガチの化け物とかの方がいいな。人型の魔物とかだったら諦めもつかなくはないけど後味悪すぎる。魔力が人並み外れて化け物級の人間とかいうオチだけはやめてほしい。やだよ、迫害に喘いだ人間が集まったコミュニティを壊せというのが裏の命令だったりしたら。むしろこの国呪うわ。
「安寧が欲しいです」
「世界の、が先に来るのであれば聖女が女神に願う内容としては正しいが、それがお前の安寧が欲しいというのであれば聖女としてどうなんだ?」
なんでそんなこと言われないといけないのかがむしろ謎だし、どうなのって感じである。
「無論、世界の。ですよ?」
嘘も方便である。




