ダンジョンに初めて来た件
ダンジョンにたどり着いた私達は迸る瘴気の前に立ち止まったのだった。
私とアレン以外瘴気というものは見えないそうだが真っ黒である。
それでも、悪い気を感じる、息苦しさを感じる、力を奪われる感覚があるというのだから、これの中に準備なしで入るとか死ににいくようなものだ。
「聖剣は対魔物・魔人専用武器みたいなもんだから瘴気には効かないからなぁ」
「となると、私が先頭に立って瘴気を祓いながら進むのが安全策でしょうね」
「それは賛成できかねます。守るべき聖女を盾にするなど、騎士としてあるまじきことだ」
難しい顔をしながらそう言うアルトさんだけど、それは現実的ではない。アレンは「じゃあ、他に案があるのか?」なんて呆れたように言った。
「今現実として守られる立場にあるのは俺たちだ。俺たちが前に出る事でノエルの邪魔となり、全員の生存率を下げることこそ避けるべきだろう」
「……今回に関しては不本意ながらそのようだ。アルト、控えよ」
「……はっ」
セドリックさんにそう言われて口惜しげに下がった。
「アルトさんの立場ならそう言わざるを得なかったのに、すみません」
「いや、この旅は魔王を倒し国の…引いては世界の危機から守る戦いだ。これからも間違ったことをしようとすれば止めてください」
苦笑するアルトさんに、安心したように笑みをつくった。うん、言うか言ってもらう。だって自分の生存率下げるの嫌だし。
あの国の王子とか騎士とかの三人はともかくとしてアレンも拉致被害者だからなぁ。とりあえず、私ら二人の生存率だけには考慮を頼みたい。マジで。
魔物を倒しながら森ダンジョンを進んでいく。清らかになれーと空気をローラーしていく気分で浄化しながら進んでいれば、悲鳴を上げて逃げる魔物かやめさせようと襲ってくる魔物かに分かれる。すぐ後ろに控えたアレンがそのほとんどを切り倒しつつ、後ろから奇襲をかけようとしてくる魔物のほとんどを他三人で退治する。
そんな感じで進んでいると、開けた場所があって、そこは瘴気の一層濃い場所だった。アレンと視線を合わせると、一気にそこに飛び込んだ。
全員が入った瞬間に後ろが茨で塞がれて、大きな花のようなものが雄叫びを上げた。
「こんな大きなラフラローズっているの!?」
「いるのだから仕方なかろう!」
ラフラローズっていうのはラフレシア+バラみたいなモンスターである。中央の頭みたいなのはラフレシアのようで、腕の花は薔薇っぽい。
とても臭いのでめちゃくちゃ嫌な顔をするナージャさん。「流石大きいだけあるわ」なんて呟いていた。
「あいつら人間が好物だから捕まらないようにしろよ!」
アレンの言葉に頷いて瘴気よ消えろーっと祈りを捧げる。聖女の浄化なんてものはだいたい祈りと精神力が肝なんだって。
大きいだけあってしぶといそれだけれど、瘴気が薄くなっていくことで動きが鈍くなっていく。魔物にとって瘴気はエネルギー源かつ空気みたいなものらしい。
自然、瘴気の濃い場所には相応の魔物が居付く。
まぁ、魔物にとっては聖女なんて魔物専用殺虫剤みたいなものだ。浄化すると弱っちゃうので。弱い魔物とかだと死んじゃうらしいし。
「今だ!勇者、行け!!」
セドリックさんの声にアレンが一歩踏み出す。そして、ラフラローズを真っ二つにした。
「ギャアアアアアアアア」という悲鳴をあげて光の粒になって消えていくそれは、緑の宝石みたいなものを残して消えた。それを拾い上げると、ブレスレットに形を変えて私の腕についた。
取れない。
「それ、大丈夫なのか?」
「取れないみたい」
「呪いの何かか?」
「ううん、浄化流してるけど効果ないからそういうのじゃないと思う」
困惑していると、ナージャさんが私の腕のそれをジーッと見ている。
それで、一つ頷いて顔を上げた。
「聖遺物のようね。強力な魔石で隠していたようよ」
「聖遺物…って、教会にあるティアラとかと同じものですか?」
「ええ。聖女と惹かれ合うというのは本当だったようね」
ちなみにティアラは教会の結界内で厳重に保管されている。
大司教様が見せてくれた。
「聖遺物も回収できて、魔物もほぼ一掃できた。素晴らしい成果だな」
それでこそ勇者と聖女であるとセドリックさんに言われてもなぁ、という感じだ。
そのままそこを離れると、新しい目的地について話し合うことになった。
森の次は港町の神殿?ダンジョン化してる?
神官何やってんだよ。
え。王都にいるという聖女の派遣を要請したものの断られた上に危ない場所に向かってくれる神官がいなくて大司教様の元に情報がいって慌てて無理矢理派遣をした頃にはすでに取り返しがつかなかったの?
クソじゃん。
「まぁ。大変ね」
内容を聞いて思った感情を飲み込んでそう言うと、アレンが「腐ってるな!」とにこやかに毒づいた。
もっと言ってやれという気持ちである。




