何事もないことを祈る件
「さすがにちょっと正気疑う」
メーティスはアニータの手紙をドン引きしながら見て、私に手渡した。
なんでも、お城の男片っ端から食い散らかしたらしい。流石の取り巻きも裁判の場で唖然としていたとか。
毒杯を賜ることになりそう、と書いてあったけどそれで済む気がしないんだよなぁ。セドリックさんが向こうにいるし。なんか思うところがありまくってたからなぁ。
どこをどうしてそんな状況になっているのかはわからないけれど。というか、よく美人とはいえ王族の妃に手を出す奴いたな。そんなに王族って軽いの?
「周囲の方から、殿方を惑わす毒婦とは聞いておりましたけど、ここまでとは……」
命を賭けてでもルイーゼさんとアレコレしたかったのかしら?
何も考えてなかった可能性もあるけれど。
まぁ、大切なのはそこではない。
彼女が逃げたというところだ。
何やら、ルイーゼさんが私を逆恨みして突撃してくるかもしれないので気をつけて欲しいとのことである。同様の内容が皇家にも伝わっている。
「それにしても、縛を力技で破りこれが愛の力だ…などと痛いことを言って逃亡というのはすごいですね」
ロイ(今は家から縁を切られたので家名はなし)さんの言葉である。どんだけルイーゼさん好きだったんだよ。そして、私のことなんて思い出さずにどこか遠くで暮らしてくれ。頼むから。
私もう巻き込まれたくないんだよねぇ。
だいたい、魔王は倒したし聖女としての役割は終わってるんだよ。本来なら家に帰り……たくはもうないかなぁ。大好きな夫と子供達がいるし。
でも、そういう選択肢もあるならば選べたならば良かったのに。
そういうこともあってか、もう本当に巻き込まれたくない。せっかく家族ができて落ち着いた生活を送れてるんだから放っておいてほしい。
「余計な手間ばかりかけさせるな、あの女」
「かといって、彼女の人気は高いですからね。適当な理由で処刑するわけにもいかなかったんでしょう」
「病死でいいじゃないか」
サラッと言われた言葉にメーティスも王族だなぁとしみじみ思う。そして、割と死刑とかにも抵抗があるあたり私ってば凡庸な日本人だなぁと感じる。
そんなことを感じつつも、こちらの世界では必要なのだと説明されているので口は出さない。元の世界のルールはこちらの世界のルールではないということは胸に刻んでおかないといけない。
「何もなければ良いのですが」
そう呟くと、大丈夫だと伝えるようにメーティスが私の手を握ってくれた。




