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異世界召喚された聖女は穏便に幸せになりたい  作者: 雪菊
聖女、母親になりました

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牢に響くは怨嗟の声



身に纏うのは煌びやかなドレスでなく、簡素な囚人服。化粧品や装飾具の一切を許されず、食事は質素で味が薄い。隠せるものが無くなったからか、髪が前髪から抜け落ちているのがよく分かった。


かつてその美しさを、魔法の質を女神の寵愛めでたき聖女と言われた女は牢の端で膝を抱えていた。


予想外だった。

クロードが側妃を迎えたのは子供を作るためであり、その愛は自分にあるとルイーゼはあのような態度を取りながらも信じていた。

子供ができないならと、ロイと体を繋げた彼女はその快楽に味を占めて好みの人間を味見していった。結果、その場面に出くわしたクロードにゴミを見る様な目で地下牢へと放り込まれた。

仮にも王妃だ、貴賓牢ではないのかと訴えるとクロードはルイーゼを残念そうな目で見つめた。



「君は王妃ではないよ。私の正妃はアニータだ。子ができず、政治に関心のない君が王妃として隣に立てるわけがないだろう」

「彼女は田舎の伯爵令嬢!わたくしがそれに劣るはず……」

「伯爵令嬢と辺境伯令嬢の違いすら分からない時点でな。国境を守る辺境伯には大きな権限があり、その地位は侯爵家相当だ。それに、君に紹介するときも私はしっかりと伝えたぞ。<第二妃>として迎えたと」



ガラテア王国において、側妃と第二妃とは位が違う。

公式に認められ子供の王位継承権も認められる愛人と、正式な妻。その差は大きい。第二妃というのは正妃と同等の権限がある。彼女もまた、正式な妻である。

前国王はセドリックの母を優秀であるからこそ側妃に留め置いた。それは正妃となった女に遠慮してのことではない。賢い妃を政治に関わらせることを厭うたからである。


そして、王太子の妃から王妃になりたいのであれば本来、色事にはより気をつけなければならなかった。


即位するときに王妃として選ばれるのは王自身が隣に立つに相応しいと定めた人間である。

クロードは未だに自分の母はそれに足る人間ではなかったと思う。彼女は父の都合の良い「政治に関心のない妻」だった。彼の母が王妃になれたのはそれだけの理由だ。



「第二妃は側妃ではない。二番目に迎え入れたというだけの、正式な妻だ。そして、二人の妃がいるということは即位をした際に隣に立つ者は、国を共に運営する者として相応しい人間に決まっているだろう?」



ショックを受ける彼女を嘲笑うかのようにセドリックはそう告げた。今までの鬱憤を晴らすかのような良い笑顔である。弟がルイーゼを選んだ時は女の趣味が悪いと眉を顰めたが、自分の行動でその愛すら擦り切れるくらいにまでやらかしてくれた。そこには少し感謝すらしている。流石の彼も弟殺しは寝覚めが悪い。父親はどうでもよかったが。



「愛情っていうのは永遠ではないんですよ」



聖女ノエルの聖女らしくない言葉を思い出して少しだけ笑いが漏れた。

彼女曰く、愛というのはお互いの努力の元でこそ長続きするもので、そうでなければ目減りしてやがては枯れるものらしい。婚約者時代に「契約上とはいえ婚約者なんだからもう少し気遣え」という気持ちも込めて言われた。


なお、気遣えと言われても仕方のないスケジュールを組もうとしたり、道を選ぼうとしたりしていたので、アレンに横から「ノエルが正しい」と説教をされたりしていた。



「というわけで、お前はただ浮気をした、貞淑の欠片もない、王家の血を謀ろうとした。不敬者だ」



楽しそうな、弾むような声音にルイーゼは震えた。

そして、彼らの本気を悟る。



「……好きだった。本当に、愛していたよ。ルイーゼ」

「だったらわたくしを……!」



助けなさい、と言う前に彼女は拘束される。

そしてもう一度クロードに目をやった時には、彼はもう部屋から出ていくところだった。

廊下からまた言い合うような声が聞こえるが呻き声と一緒にそれは止まる。



「陛下、マジで人を見る目ねぇな……?」

「言うな」



部屋の外へ連れ出されると、幼馴染であり愛人だった男たちがいた。勇者アレンはいつの間に戻ってきていたのか。男たちはアレンの前に気絶していて、その勝敗を悟ったルイーゼは唇を噛んだ。


そうして牢に入れられ、囚人用の服を着せられた彼女は蹲る。こうなったのは全て自分を聖女と認めなかった彼らのせいだと。



(力が、力さえあればあんな奴ら……!)



親指の爪を噛むと、屈辱の味がした。

アレンがいなければ、ここに魔王の残滓も入り込めた。悪役令嬢ルイーゼと魔王の力は大層相性が良かった。身勝手な復讐、報復もできただろう。しかし、貰った聖女の守りを未だに持続させている彼が城に来たことと、セドリックが帰国前にノエルにもらったお守りが相乗効果を発揮して結果、ルイーゼにその力が入り込む余地をなくしていた。

彼女はあくまでも何の力もないただの女として、反撃の機会もないままその判決を待つのみとなった。


──はずだった。

反省という言葉は彼女の辞書になかったりする。全部他人のせい。

永遠の愛なんて互いの思いやりをもってしかなし得ないのである。

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