冒険に出ることになった件
私はアレン・セドリックさん・アルトさん・ナージャさんと旅に出ることになった。殿下とか様って呼ぶと外で大騒ぎになるのでさん付け強要である。そりゃそうだよなって思ったから素直に頷いた。
そういや、ルイーゼちゃんとやらはしばらく謹慎らしい。ははは、真面目系王子様やってくれるな!真面目系王子様メーティス私からの好感度が高いぞ。聖女パワーが恋愛にも通用するようだったら神殿に行った時とかに良いお嫁さんが来るように祈ってやろう!というか、それくらいしかできることがないので。
意外と女神様、聖女の頼みはほいほい聞いてくれるって教会の偉い人がポロッとこぼしてたからちょっとくらいご加護あるよ、多分。
そんな私たちは行ってきますと盛大に城を出て行ってからこっそり宿で服を着替え、地味に旅をすることになった。
「いざとなれば補給も受けられる。民たちに傅かれながらの旅というのもな」
とはアルトさんの言である。
そらそうだ。私も勇者誇示しながら旅する勇者パーティは嫌だし解釈違いだわ。
私もぱっと見ただの町娘である(らしい)。皆様キラキラなお顔の中私は地味だ。普通が一番だしいいよね。
ナージャさんは私のあまりの地味っぷりに逆に感心していた。
とはいえ、ある程度は目立たなくては国民に「本当に勇者パーティ頑張ってんの?」って思われそうなのでちょいちょいは目立たなくてはならない。
匙加減の難しい問題である。
そんな中、問題があるという最初の町にたどり着く。
「確か、ダンジョン奥の魔物が原因で瘴気が濃いんだったか」
「そうだ。それなりに強い魔物を配置しているようだ。王都からはそう離れていない場所だし、影響も与えやすい場所だからな」
いきなりその「それなりに強い魔物」と当たって大丈夫なのかとナージャさんに聞くと、「私たちであればさほど苦労はしないはずよとウィンクされた。
「東の森への討伐についてった時のやつと比べるとどんなだ?」
「それよりは少し強いと思う」
「ノエル、あの時は吐いてたけど今回は大丈夫?」
「吐いても役割は果たすから安心して」
慣れるかなんてわからないけど、生死がかかっている以上それでも戦いに食らいつく意思はある。それを示してみせる。
いつも思うんだけど、育った環境とかって思ったより自分の価値観に影響があるなぁ。一緒に着いてきてた治癒術師は「たかだか血が出てたり何かが死んだくらいで立ち止まるんじゃねぇ!!死人が増える!!」と言っていたが、今までその世界や戦場にいなかった人間が立ち止まらずに頑張れたらそれはそれで怖い気がする。
その後は、その治癒術師さんについて医療現場にお世話になったこともある。
その時で吐いたりするのはほとんど収まった。慣れたというよりは自分の中で折り合いがついたというべきだろうか。
立ち止まると死人が増える。
それだけがその場の真実だったからだ。
(まぁ、正直なところこの国の人間が全滅しようがほんとなら知ったこっちゃないんだけど)
それでも身の安全や将来を考えるとやった方がいい事はわかるので必死になっているが。
目の前で攻略ルートを決める男3人を見ながら、もうちょっと単純な子を召喚したらよかったのにねぇ、と思ってしまう。
「参加しなくてもいいの?」
「ええ。地理などにそう詳しくない私が口を挟んでもいい事は無さそうです。けど、地図の読み方がわかるように見学はさせていただいています」
苦笑しながらそう言うと、彼女も「私も研究畑の人間だからね。詳しくないから分かるよ」と頷いた。
地図の読み方や各地方がどんななのかまでを把握するほど時間はなかった。貨幣の価値や注意事項などは聞いたけれど、それだって「殿下たちがおられるのだから良いでしょう」という扱いだ。
おそらく、私が一人でなんでもできるようになるという事を「逃げられる可能性が上がる」として疎んじているのだろう。
素直で、いい子で、優しく、清廉で。
そう望まれた通りにいてあげたのだから、彼らは今の私の状態にさぞや満足していることだろう。
だが、外に出る以上、私がそれ以上の地域の知識をつけることは避けられないだろうに。
逃げることなど考えてもいない、という顔で大人しく魔王討伐のメンバーにいれば、どこかで帰れる術を見つけた時にも隙が生まれるかもしれない。
帰ってもそう楽しくはないかもしれないが、ここで利用されるだけで生きる方が今のところメリットを感じられないんだよなぁ。




