『起』(間咲正樹担当)
※使用ワード
無し
※スペシャルワード
手の描写
「え?……ここは?」
気が付くと俺は見渡す限り何もない、無機質な空間に立っていた。
「お主は死んだんじゃよ」
「っ!?」
後ろから聞き覚えのない老人の声がしたので振り返ると――
「どうも、ワシは神様です」
「神様!?」
そこにはブーメランパンツ一丁で、肩幅が二メートルくらいはあるムキムキマッチョな爺さんが佇んでいた。
へ、変態だ―!!!
「これこれ、誰が変態じゃ」
「なっ!? あ、あんた、俺の心が読めるのか!?」
「神様じゃからな」
「……」
にわかには信じられないが、こんな人間がいるとも思えないのは事実だ。
本当に神だってのか?
この爺さんが?
……だが。
「……ここはいったいどこなんだ? 俺は駅前で、趣味のパラパラを一人で踊ってたはずなんだが……」
「だから死んだんじゃって」
「――!」
そんな……。
死んだ?
俺が?
「子猫の大群に轢かれて」
「子猫の大群に轢かれて!?」
何それどういう状況なの!?!?
子猫に轢かれただけで死んじゃうくらい、ひ弱だったの俺って!?
「でも可哀想じゃから転生させてやろうと思っての」
「転生――!」
おお!
てことはこれ、今流行りの異世界転生ってやつなのか!?
それはいい。
どうせ42年間一度も彼女がいなかった、パラパラだけが趣味の俺だ。
ここは一つ、チートスキルでももらって、異世界で無双してハーレムを築いてやるぜッ!
「てことでお主の転生先は、1582年の日本な」
「日本!?」
異世界じゃないの!?
「お主は明智光秀として転生する」
「明智光秀!?!?」
ちょっと何言ってるのかわかんない!?!?
えっ???
明智光秀に、なるの? 俺が??
「時期的にはちょうど本能寺の変の前日じゃ」
「本能寺の変の前日!?!?!?」
「つまり本能寺の変を起こすのも起こさぬのもお主の自由という訳じゃ。まあ、周りの部下達は既に殺る気満々じゃからなあ。起こさなかったら起こさなかったで、逆にお主が殺されてしまうかもしれんのお」
「そんな……」
でも、歴史通りに本能寺の変を起こしたら、結局その直後に俺は殺されてしまうじゃないか……。
「では、健闘を祈っとるからのお」
ムキムキマッチョ爺さんは、手に持った『転送スイッチ』と書かれたスイッチを、無造作に押そうとしている。
っ!?
「待ってくれよッ!!! これはいくら何でも無理ゲー過ぎるだろ!? せめてチートスキルの一つや二つくれよッ!!!」
「やれやれ、現代っ子じゃのお、お主も」
「……」
42だけどな。
「わかった。では一つだけスキルを与えてやろう」
「ホ、ホントか!?」
よっしゃ!
言ってみるもんだぜ!
「大声で、『光秀ダイナマイト!』と叫んでみよ」
「は?」
何言ってんだこいつ?
見た目だけじゃなく、頭の中も変態なのか?
「失礼なやつにはスキルはやらんぞ」
「あっ! ご、ごめん! やるからやるから!」
そうだ。
俺が考えてることは筒抜けなんだった……。
……くっ!
背に腹は代えられないか。
「……み、光秀ダイナマイト!」
「もっと大きな声で!」
「み、光秀ダイナマイトッ!!!」
「もっともっと!」
「光秀ダイナマイトッッ!!!!!!」
「ビブラートを効かせて!」
「光秀ダイナマイト~~~~~」
「ハァーイ、オッケー!!! 転送スイッチぽちー」
「オォイッ!?!?!?」
マッチョジジイは、無慈悲に転送スイッチを押しやがった。
こいつ!?
――その途端、俺の身体が天高く浮かび上がっていった。
ぬあっ!?
「じゃあ、転生先でも達者でなあー」
「オイ!! 光秀ダイナマイトって何なんだよ!? どんなスキルなんだよこれはッ!?」
俺の叫びも虚しく、ジジイとの距離はぐんぐん遠くなっていった――。
そして俺が目を覚ますと――。
間咲正樹
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