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契約

こっそり更新

契約。


それは相対する当事者の合意によって成立する約束のひとつ。

こともあろうに目の前に前世の姿であらわれた何者かは、法的担保もなく詳細どころか内容すら告げずにいきなり契約を迫ってきた。


私の勘が言っている。

こいつロクな奴じゃない、と。

少なくともこんな杜撰な交渉をしてくる相手となれば、姿形は前世の私でも中身は全くの別物。

となれば前世の私を知っているわけではなさそうだ。


「契約内容は至って簡単!私はキミに力を与える。キミはその力を使って自由にしてくれ。それだけさ。さぁ契約を!」


「なるほど。断る!」


まったくコイツのように人の話きかない奴というのは礼儀も知らないアホばかりだ。


「そもそも、あなたは誰だ?以前の私と同じ顔をしていようが中身がまるで違う。せめて契約したいのなら素性を明らかにするのが礼儀というものではないでしょうか?」


「ハハハ、なかなか愉快な子だね!私は悪魔、デーモン、悪霊、鬼、なんとでも呼ぶといいさ、ジャン君」


悪魔ときたか。

夢の中、のような不思議空間に前世の私を写すその姿。

こんな超常の現象を起こせるなら神か悪魔だろう。

そして、悪魔などと自称するからにはマトモな奴ではあるまい。

勘は正しかったな。


だか、仮にこいつを悪魔とするならこいつの目的はなんだ。

契約を迫ってきていることといい、安易に対応すると思わぬ落とし穴がありそうだ。


「では、悪魔殿と呼ばせてもらおう。して、悪魔殿はなぜ私と契約を結びたいと?」


「ん?なぜ君となのかって?理由は、そうだな。君なら面白いことをしてくれると思ったから、かな」


私だと面白い?

たしかに世間から見て十歳の子どもとしては異端な存在であるとはいえよう。

それは前世というものを知っているからこそだし、肉体的に特別視できるような特徴もない。

そんな私に何某かの力を与えることで、面白くなりそう?

だめだ、まだまだ考えが読めない。

もっと情報が必要だ。


「つまりは私の異常性を理解していると思っていいのか?」


「そうだね。君のその屈折した精神、つまり君の魂の在り方はこの世界において異端も異端、ひじょーに面白い!だからこそ君に期待したくなる!!この世界を変えてくれるんじゃないか!?とね。」


「なるほど、私に力を与えればこの世界を変えられると・・・革命でもお望みですか?」


「フフフ、何も望みはしないよ。ただ僕は力を与えるだけさ。何かをしろだなんてそんな面白くないことはしない。君が君らしくしたい事をただ望み通りすればいい。さて、どうする?」


ふむ、この世界という言葉からして私がもともとこことは違い世界に存在した者だとは理解している。

そして私の在り方を理解してなお期待するということは、この世界にない価値観なり、思想に期待しているということか?


いや、私に自由にしろと言っていた。

私は確かに異端な存在ではあるが、特別この世を変えたいとか何かを成し遂げたいなどといった大望は持っていない。

現体制を取って代わるなど以ての外、できるなら現在の権力機構に乗っかり、目立たぬよう順風満帆な平和な日々を過ごしたいと願っているのだから。

その点でいえば、私はかなり受動的な行動をとることが多くなることは明白だ。


私の魂の在り方を理解していると語るこいつにとってそれくらいは予想できるはず。

となれば、それでもこいつにとって私が力を手に入れることによって得られる利益があるはず。

まだ情報が足りない。


「まだだ。まだどんな力なのか説明がない。それがわからない事には契約しかねる」


「そう、そうだ。それを忘れていた。君に授ける力は『魔法』だ!己が世界に変革をもたらす力。獣を上回る俊敏、岩をも砕く剛力、鋼の如き頑強、全てを捉える晴眼。個人において他を圧倒する純然たる力、まさしく魔法の力だよ!!」


予想外だ。

魔法というから、てっきりファンタジー的な火や水などを操る力かと思えば、人の延長として強化されるようなものか。

まだ地位や権力、金銭など不自由なく手に入れられる力といったものの方が魅力的だ。

だが、こんな争いの火種が至る所にあるこの世界では役に立つ力ではありそうだ。


それよりも、だ。

こいつのことだ、この力は何か裏がありそうだ。

こいつがまともに答えるとは思えないが確認はするべきだろう。


「その力、何か代償はあるか?」


「代償?そうだねー大したことじゃないよ、使うたびに少し我々に近くなるだけさ」


「近く?それはどういう・・・」


「おっと!そろそろ不味いね。サービスタイムは終了だよ!さぁ契約するかどうか、決めてくれ!」


「ちょっとまて!まだ全然」


「いやー僕は構わないんだけどね、キミの体危ないよ?ほら、こんな状態なんだぜ!」


後ろの扉が勝手に開くとそこには現実の光景が映っていた。

ちょうど下卑たニヤケ顔を浮かべた浮浪者みたいな男が私の鞄を奪おうと、鞄を抱えて寝てる私にナイフを突き立てようとしているところであった。


「くそっ!だから雑魚寝は不安だったんだ!おい!悪魔!早く私を元に戻せ!契約についてはまた次回に持ち越しだ!!」


「クハハ、ざーんねん!それはできない話さ!契約しないならココからは出せない!」


「なっ!?それでは選択肢などないではないか!!巫山戯るな!これではただの強制、契約にもなっていないではないか!!お前は何がしたいんだ!?」


「フフフ、僕は悪魔だよ?望むものは手に入れるさ!なに、困るような契約でもなし、素直に受け入れなよ。これは君の為の契約でもあるんだよ?」


「ぐっ、覚えていろ!悪魔!!お前の思い通りになってたまるか!いつかそのニヤケ面を歪ませてやる!!」


「そうかい?それは期待して待っているよ!さぁ!契約を!!」


「ちっ!あぁ!契約だ!私に力を寄越せ!!」


瞬間、私は霧のような暗闇に包まれる。

得体の知れない不気味な感覚と身体に巡る何が私を何か変えるような不思議な感じがした。


「ここに契約はなった!契約者ジャン!君は君の思うまま突き進むがいい!!予言する。君は力を手に入れた時から自ずと僕の期待に応えてくれる。また会う日を楽しみにしているよ!!」


闇が晴れていく。

それと同時に身体に感覚が戻ってくる。

暗いはずの部屋なのに少し眩しさを感じながら目を開く。

目に飛び込んできたのはニヤケ面の男がナイフを私の喉元に届かせる寸前の光景だった。

不思議空間。

アックマん強制契約。

おっさんに刺される。

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