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ジャン

更新不定期、注意

私が気が付いた時にはすでに村は燃えていた。

生まれて約十年ほど過ごした家はすでに燃え盛る瓦礫と化し、親兄弟をはじめとしたほとんどの村人が死に絶えている。

この世界ではよく聞く話だ。


「食い物や女、ガキは燃やすなよー!」

「おぉ!!久々の女だぜー!ひゃっはー!!」

「おっこいつ抵抗しやがる!さっさとくだばれってんだ!」

「この女なかなかいいじゃねーか!ひさしぶりにたぎるぜー!!ひひ」

「腹減ったー・・・こんなガキどもより食えるもん持って来いよー」

「ばかやろーガキは金になるっつってんだろ!むやみに殺すんじゃねーよ」

「やべーこの女超さいこー!ん?娘もいる?連れてこい!一緒に可愛がってやるよ!!」


それはさながら地獄。

慈悲も加護もなく、ただ燃え盛る火と同じく人の欲と暴力が渦巻くクソったれな一日。

今日この日、私の故郷はどこぞの野盗に襲われた。


「おらっ!そこ!!ぼさっとしてんじゃねー!あそこに女がいるぞ!さっさと連れてこい!」

「うすっ!」「あいさー!」「いくぞっ!」


「っ!んむーっっっ!!」


おっと、まずいまずい。

眺めている場合じゃないな、さっさと逃げないと。

野盗の向かう家で先ほどこの手で縛った哀れな女が身を挺して気をひいてくれている間に裏の山に逃げねば。


「おっなんだこいつ?縛られてるじゃねーか!そそられるねー!誘ってんのか?!ぎゃははは」

「ちっ大人しくしてろ!」


「んー!んんー!んーんん!!」


「いてっ!こいつ、暴れんな!!!おらっ!」

「おいっあんま傷つけんなよ!楽しめなくなっちまうじゃねーか!」

「わりーわりー、縛られてる割には暴れるもんだから、ついカッとなっちまってよー」


ふむ、普段から何かと嫌がらせしてきたクズだったが、なかなかに役に立つじゃあないか。

女が喋れるようになったら私の存在がばれてしまう、さっさとお暇しよう。

慰み者になるのは確定だが飽きるまでは殺されることはないし、運が良ければどこぞで奴隷なり娼館に売り飛ばされてでも生きる可能性があるのだからお互いウィンウィンの関係だと思ってもらいたい。



◆◆◆◆◆



さて、順調に村から逃げ出せた所で安全を確保する為に以前から用意していたセーフハウスまで自己紹介しながら向かうとしよう。


はじめまして、くそったれな皆様。

わたくしはダー村に住む十歳の男子、ジャン・ダーニングと申します。

なんの因果かこんなクソったれな世界に転生した平和を愛する日本男児である。

えっどんな経緯で転生したのか?

そんなことはどうでもいいだろう。

いやなに、私も死んだという感覚は残っているが、どうしてと言われても気が付いたらとしか言いようがない。

だから転生を望む諸君、ぜひ一度死んでみることをおすすめする。

運がよければ私のように転生できるかもしれないよ。

まぁ転生した先が私と同じように良き世界とは限らないがね。

さて、簡単な自己紹介は済ませたのだから君たちの事もおしえてくれないかな?


「グギャギャっ!ガウルグルっ!」


「はて、どうも君たちの言葉は私にはわからないようだ。生まれてから新たな言語の習得は意外とすんなり覚えられたが、君たちの言葉はいつになっても覚えられそうにもないよ」


「ガグルっ!ガルっ!」


「ははっ!元気だね!そんなに元気なら転生先でも上手くやっていけるよっ!っと」


手にしたマチェットでゴブリンと呼ばれる人型モンスターをさっくりと殺す。

このゴブリン、身長は十歳ぐらいの子供と同程度の身長でサルをより醜悪な感じにしたような生き物だ。

力は大人の男性ほどあるが、知能は極めて低く簡単な罠や武器などあれば大して苦労せず駆除できる存在だ。

もちろん、ただの子供が対処できるものではないが、御覧の通り森の木々を上手く使い、刃物などを利用すれば普通の大人がもつ思考があれば簡単に対処できる。

それがたとえ複数いたとしても所詮畜生、単純な行動しかできないならお察しというやつだ。


「これで最後っと!」


「ガッ・・・」


無事、3匹のゴブリンを駆除した私は、村から二時間程の距離にあるセーフハウスに到着した。


「さて、予定通りタペスに向かうことにするか」


準備してたバックパックに、ハーブや塩と、そうだ換金用に砂金を持っていかないと。

いかに村に金を使う機会が行商人が立ち寄った時だけだとしても、どこのどんな世でも先立つものは必要だ。

そこは前世と何ら変わらない。

ちょうど廃村予定の故郷から餞別をいくつも見繕ってきたので懐は温かい。


しかし、この世界にはゴブリンがいるように前世と違った理が多くある。

モンスターはその最たるものだが、他にも魔法じみた現象や異常な力を発揮することができる人間がいる。


村にくる行商人が護衛に雇っていた者たちが体格に見合わぬ膂力を発揮しているのを見たし、行商人に聞いたところ護衛や傭兵などはそういった異常な力を持つ者たちが大半であることを言っていた。

魔法じみた現象は旅の神官が村に立ち寄った際に傷病人を魔法的な何かで治療しているのを見た。


かく言う私も15歳であるにも関わらず、前世の大人だったころよりはるかに筋力がある気がする。

行商人に聞いた話によるとこの世界の生き物にはそれぞれ生命力の源となるものがあるらしい。

それが他者を喰らうなり、殺すなりすると一部を吸収し己の生命力の源、『魂力』を増大させるとのことだ。


この魂力が増えるにつれ物理的な力や思考力が鍛えられるようだ。

特別なトレーニングをしたわけでもない今の私が前世より力持ちになれた理由がこれだと推察できるのでまったくのデタラメというわけではないのだろう。


ただし、そんな多少一個人が力を付けたところで、村の貧弱な防衛設備と警戒心の薄さからして、モンスターや野党、傭兵など力ある存在に襲われればどうしようもない。

危機管理的観念からセーフハウスの準備とモンスター狩りに勤しんでかれこれ約三年。

ようやく近隣の町へ行く理由ができたというものだ。


基本的にただの村人が村を出て生きていくにはそれなりの理由がなければ身元不明の不審者扱いで路頭に迷うなんてざらにある。

そういった意味では家族や隣人などの人間が死んだのは結果的にも助かる。

あの村はもう村としてやってはいけないからこそ言い訳がたつってもんだ。


はっきり言って前世を味わった身からすればあの村で一生を過ごすのは辛すぎる。

ただでさえ気味悪がられて疎まれていたし、愛情よりも打算での付き合いしかなかった家族や隣人に情を抱くこともない上に毎日がギリギリの生活。

どこぞの社畜が可愛く思える生活、成熟していない社会構造、地獄である。


とまれ、村で農作業をしない代わりにモンスターが跋扈する危険な森の中で動物を狩ることで言い訳ができたからこそセーフハウスを作り上げる事ができた。

やはり人が持つべき力とは知恵であるということが証明されたわけだ。


さて、長々と考えてしまっていたが思ったよりこのセーフハウスに愛着があったのかやや感傷的になってしまったようだ。

早速、ここから最も近い町タペスに向かうとしよう。

行商人や町に買い出しに行く村人から聞いた話では街道を大人の足で二日ほどの距離ということだ。

多めに見ても約六十キロほどの道のりと考えるべきだろう。

通常の子供の足なら二日では無理だろうが、普段からモンスター狩りをしていた成果がここで活きてくるだろう。


よし、準備は万端だ。

では、出発しよう。

ジャン・ダーニングに転生。

村、野党に襲われる。

ジャン脱出、町タペスへ向かう。

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