許容範囲外
今朝まではちょっとしたずれだったのに。
悔しさと情けなさが混在した心境で、リュウコツ川沿いの遊歩道を下流へと自転車で進む。
周囲では下校する生徒がふざけあったり、爆笑していたりして騒がしい。
俺の隣で自転車を漕ぐメイは無言で回転する前輪を一点に見据え、俺たちだけが喧騒の渦からはじき出されたみたいに森閑としていた。
メイは今、なにを考えているのだろう。
職員室に呼び出された理由も昼休みに発した意味深な言葉の真意も、問い質す勇気がなぜか湧いてこない。ただ焦燥感だけがじわじわと体を蝕んでいる。
俺は彼女の一挙手一投足でこんなにも狼狽してしまう弱い男だったのか。
「ジュンちゃん、帰ろ」
放課後、メイから帰宅の誘いがあったことに俺は安堵した。
昼食の一件以来、メイはずっと暗澹としたオーラを纏って、心を閉ざしてしまっていたからだ。
クラスメイトはもちろん、俺でさえ近寄りづらかった。
「まだ学校を出るのは早くないか? 通学路もフクジュ商店も生徒だらけだぞ」
「一秒も無駄にできないから、早く帰ろ」
緊迫感を含んだ語気でメイは言った。
本来なら人混みを嫌悪するメイのわがままにつきあい、生徒たちが閑散としてから、俺たちは校門を後にするはずだった。
「なにをそんなに急いでるんだよ」
俺が疑問を投げかけても、メイはすでにひるがえって教室の出口に向かっている。
俺がいてもいなくてもどちらでもいいと示唆されているみたいで、慌ててメイの背中を追った。
今朝まではちょっとしたずれだったのに。
誰を憎むわけでもないけれど、恨めしく思いながら、自転車をこいでいるとフクジュ商店とメイの家へ分岐するY字の道に差しかかっていた。
メイはブレーキをかけて、立ち止まる。
「じゃあ、ここで」
「ヤマ兄のとこ寄っていかないのか?」
「うん。用事があるから、ごめんね。ばいばい」
メイは俺の誘いをけんもほろろに断り、素早く家路を駆けていく。
俺はぽつねんと夕暮れ間近の住宅街に取り残された。
自然と自転車の方向がフクジュ商店を指す。
俺だけでも習慣を貫徹しようとする行為が虚しかった。