平穏無事な日々
桜並木の下を自転車で通学する。
桜はつぼみから変化はない。俺の進行方向とは逆に流れるリュウコツ川は朝日に照らされてキラキラと輝いている。清々しいそよ風が頬を撫でていく。
メイとの待ち合わせ場所、遊歩道に設置された青いベンチに差しかかった。
毎朝、青いベンチで待ち合わせしようとお互い示しあったわけではない。習慣になっているだけだ。
俺たちは習慣を厳守する。日常を崩したくないのだ。一度、ばらけてしまうと、ふたりはふたりでいられなくなる。
「おっはあ」
後方から間抜けな挨拶が聞こえ、振りむくとすぐ後方でメイが自転車をこいでいた。
俺は隣にきた彼女の横顔を覗いて、不審に眉をしかめた。
「やけに眠そうじゃないか」
メイの肌は血が通っていないように青白く、瞼の下には濃い隈が縁取っていた。
まだ夢の中にいそうなトロンとした瞼をしばたたかせている。
「うん。深夜に題名も知らないアクション映画がやってて、面白くてつい夜更かししちゃった」
「ありゃ、魔性だからな。深夜テンションとマイナー映画が起こす化学変化は何人も抗えない」
「背徳感が病みつきになるね」
俺たちは他愛もない会話をしながら、並んで登校する。
時々、メイは朦朧として大きく蛇行するので、リュウコツ川に落水してしまうのではと気が気でなかった。
小さな変化はメイの寝不足ぐらいで、許容範囲内だ。
俺たちの平穏無事な日常がはじまろうとしている。