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若者たちのすべて  作者: 藤沢悠
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朝のNEWS

朝食をすませ、台所で食器を片づけていると、居間から女性ニュースキャスターの甲高い声が漏れてきた。


「昨日、夕方頃、N町海上造艦基地から出航した第二十四移民航宙艦クジラは無事太陽系を突破、広大な宇宙へと旅立ちました」


舌を噛みそうな文章をよくすらすらと読めるものだと感心する。

女性アナウンサーは一呼吸置くと、尚もトップニュースを続ける。


「クジラに乗艦した七万人のうち、大半を占める五万五千人が十代の若者たちとのことです。

彼らは特殊施術アフターエフェクトを受け、統一世界政府から優性人種として認定されています。

人類の未来を切り拓いた特殊施術とは一体どのようなものなのか。

本日は詳しく解説していただくため、アフターエフェクトの権威で、ESP開発機関STT長官でもあるトキワ・サミダレさんにスタジオへお越しいただいております。トキワさんよろしくお願い致します」


「よろしく」


短い挨拶をした男性の声は重圧を感じる荘厳さがあった。


「さっそくですが、アフターエフェクトとは具体的にどういった目的でおこなわれているのでしょうか?」


「目的は単純明快、人類が地球の放棄を決定したことから端を発する。

当時の科学力は大規模な航宙艦を造艦する技術も理論もなかった。

しかし、事態は一刻の猶予もない。そこで白羽の矢が立ったのが我々の進めていた研究、アフターエフェクトだ。

アフターエフェクトは被験体の脳を変化、再構築して人為的に天才を生み出す。

実験は成功段階にあり、融資さえあれば分野を問わず、数々の天才を輩出する用意があった。

我々に協力を仰いだのは世界政府の英断と言えよう。

STTは優秀な人材を提供し、科学力を瞬発的に向上させ、短期間に二十四隻もの移民航宙艦を無事、宇宙へ発たせたのだから」


トキワという男はシンプルだと宣言しながら冗長的な言い回しで、説明の端々に所属機関の偉大さを主張している。鼻につく男だ。


「なるほど。しかし、STTは航宙艦を独占していると非難の声もありますが?」


女性アナウンサーも勘に触ったのか、台本通りなのかは判然としないが、声色は鋭い。


「まだ、そんな馬鹿げた妄執に囚われている方々がいるとは驚きと憤りを禁じ得ないな。

複雑な構造をもつ航宙艦の維持、未知のアクシデントへの対処を一般人に任せられるとお思いか?

それに人類は常に進化していくのが義務だ。

文明、文化を更なる高みへと昇華できるのはアフターエフェクトを受けた子供たちにしか実現できない。限られた定員数を埋めるのが、STT出身者であるのは自明の理であろう」


トキワは余裕な態度で受け流す。


「アフターエフェクトへ適性のない若者たちは見捨てろと仰るのですか?」


「我々は意図的に適性、不適正を取捨選択しているわけではない。

彼らには潜在的な才能が欠如していたのだ。

仮に乗艦資格を得ても、なんの役目も与えられず生産性のない豚と化すのは明らかだ。

ならば、地上で平凡に暮らすのが妥当ではないか。

優性と劣性に区別しなければ、この世は成り立たない。

その合理的な思想を定着させたのは政府とあなた方メディアだ。STTに関連性を追及するのは筋違いであるし、糾弾されるいわれもない」


朝から生テレビの激論は最高潮に盛り上がっている。テレビ局は目論み通りだろうか。


ただの口論に移行しつつある番組にうんざりし、俺は食器を水切りケースに全て並べた。

群青色のマフラーを首に巻きながら玄関へむかう。


「じいさん、いってくる」


ローファーを履きつつ、居間でニュースを眺めている祖父に声をかけた。


「おう、いってこい、できそこない」


「徘徊して迷子になるなよ、くそじじい」


お互い背中越しで罵りあってから、俺は鞄を拾い上げて玄関の引き戸を開けた。


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