長い長い雨
投稿を完全に忘れていました
去年から…去年!?
両親が亡くなったのも、こんな大雨が降った日だった。
当時、俺は小学校低学年で、季節は夏だった。
母はお腹に第二子を授かっていた。
出産を間近に控え、満月のようにまんまるになった腹部を母と父が愛おしそうに撫でる情景が目に焼きついている。
俺たち家族は慎ましくも小さな幸福でいっぱいになった狭い一軒家で、毎日をぽかぽか過ごしていた。
世界の終わりでさえ、俺たちを邪魔する手立てはなかった。
小さな幸福を転覆させる大きな不幸は前触れなく訪れる。
町が激しい雷雨に見舞われた日があった。
へそを狙う鬼となって追いかけてくる父と逃げまわる俺がじゃれていると母が突如呻きだした。
陣痛がはじまったのだ。
父はすぐに救急車を手配したけれど、救急隊員から浸水してしまっているリュウコツ川付近の道路を迂回しなければならず、到着時刻の予想がつかないと返答された。
八方塞がりの状況下で、父は所持する自動車で母を山麓の病院へ連れていく決断を下す。
俺と祖父は自宅で留守番するよう命じられた。
父は封鎖されているリュウコツ川付近の車道を猛スピードで突破する。
通い慣れた道に油断したのだろう。
濡れた路面にハンドル操作を奪われ、自動車はガードレールに突っ込んだ。
豪雨降りしきる封鎖された区域に人影はなく、両親を救助できる人は皆無だった。
早朝、我が家の電話が鳴る。
父からの連絡を寝ずの番で待っていた祖父は勇んで受話器を取った。
居間で眠る俺は呼び鈴で目覚め、意識の半分はまだ夢と戯れていた。
がしゃんと鋭い音がして、俺は咄嗟に起き上がる。
廊下を窺うと、亡霊みたいに項垂れた祖父が立つ。
こちらをゆっくり振りむいた祖父は瞬きひとつせず、蒼白した顔をしていた。
「ジュン、父さんと母さんが死んだぞ」
死をたいして理解していない子供であったけれど、祖父のただならぬ雰囲気を悟る。
俺は呆然としながら、床でシーソーみたいに揺れる受話器を見つめた。
以来、電話は不吉を報せる機械なのだと刷り込まれた。
成長して心も身体も鍛えられたのに、未だ電話に触れることができない。
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