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われら戦国部!  作者: 詩音
4/4

《第4話》 「もう1人の4年ぶり」

こんにちは!

本日も「われら戦国部!」に訪れて頂き感謝致します!




バスに揺られながら俺たちは作戦会議をしていた



先程まで裏庭で「今日の練習も頑張るぞぃ!」と息巻いていた筈なのに今はバスに揺られて会場に向かっている事に多少現実味を帯びないが

これも現実、受け入れよう



「相手のナガセ・アミのチームはかなり異質だからな、対策を立てよう」



そうやってアミに対する攻略法を画策してる友人を見てるのもなんだか現実味を帯びない

クルミも複雑そうな面持ちだ



「武器は無いと言ったら大会の主催側からレンタルして貰える事になったからそこは大丈夫だ

問題はナガセ・アミの攻撃をどうやって攻略するかだが……」



聞いた話によるとアミはチームを組まないらしい

大抵どこのチームも限度ギリギリの5人でチームを組むのだが、アミのチームは、1人でズバ抜けて強いアミを崇拝して集まったファンクラブみたいな連中が居て

その中で強い4人がアミの護衛をする

というような極めて異例で異質なチームのようだ



「……〜だから……して…」



作戦を練るナカタ達の声が何処か遠くに聞こえる

なんでアミと戦わなきゃ行けないんだろう……なんて今更考えても遅いな



アミが今何を考えて天下なんて地位にいるのかわからない

お前が言っていた行かなければならない所って天下だったのか?



「……い……おい! シンジってば! 聞いてるのか!?」



体を揺すられてこの場に意識を戻す



「あ、あぁ、作戦だろ? 聞いてたよ」



考え事はしていたが耳は隣で白熱する作戦会議に向けていた為内容はバッチリ頭に入っている

授業中睡眠学習しまくってたのがここで役に立つとは思いもしなかった



ーーキキィ…



心地良いリズムで俺達を揺すってくれていた大きなバスがその動きを止める



「……着いたのか?」



「……みたいだな…」



なんて、ちょっと漫画に毒された様なセリフを吐きながら固まりかけていた腰を上げる



バスを降りると目の前には……



「……大きい…」



隣でクルミが呟いた言葉に全面的に同意だ

だが付け加えるとしたら



「……デカイなんてもんじゃないな…これは…」



見上げると首が痛くなりそうな半球状の建物

しかし上の部分は口を開けるように開いておりここから見ると燦々と街を照らす太陽を食べようとしてるようにも見える



「さぁ…!いくぞ!!」



主将の掛け声に合わせて俺たちは戦場へと足を向けた










〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜



「……どれにするかな…」



会場に入った俺たちを「お待ちしておりました」ととても丁寧な言葉とお辞儀で迎えてくれた係りのお姉さん



そのお姉さんに連れられて夥しい量の武器が並ぶ部屋に通された



この中から好きに武器と防具を選んで良いようだが、これだけあると逆にどれがいいのかわからなくなる



「よし! 俺はこれにしよう!」



5メートルほど離れた位置でなにかを決心した様子のナカタ

彼の手には一つの短剣が握られていた



「そんなんでいいのか?」



「あんまり飾り過ぎてもな! ここはシンプルイズベストだ!」



「そういうもんか?」



そう言いながら、手の上で鞘に収まったままの短剣を宙に放って弄ぶ



そんな俺たちのやり取りを横目にヤシキくん、ナッチも武器を決めたようだ

ヤシキくんは鉄球のようなものが付いた鎖、ナッチは鞭のようなものを持っている



「クルミはどうするんだ? 武器なんて持たないで盾だけ持ってても良いんだぞ?」



「ううん、私はこれにしますね」



彼女の手に掬い上げられたのは弓矢だった



「私中学の頃弓道部だったのでこれならシン兄の……いえ、皆さんのお役に立てると思うので!」



「……そうだな! 確かにクルミにはそれが1番似合うぞ!」



俺の褒め言葉にクルミの桃色の尻尾がフリフリと本当の尻尾のように揺れる

……この髪はクルミの感情とリンクしてるんじゃないか



「シン兄さんはまだ決まらないですか?」



「いやー、どれでも良いんだけどそう考えると尚更決まらなくてなー」



頭を指で掻きながらそう答えると

隣にナカタがやってきて一つの武器を勧めてきた



「なぁ、これなんてどうだ?」



「……これは…っ重っ!!」



彼に渡されたのは俺の胸の高さまである大きい剣

重さなんて10キロ以上あるんじゃないか?



「……あぁ、でも悪くない」



「そうだろぉ? 中々似合ってるぞ!!」



その時部屋のドアが開いて先ほどの丁寧なお姉さんが入ってくる



「得物はお決まりになりましたか?」



ーーこうして、俺たちの初戦が幕を開ける







ただの開幕前座だから…という甘い意識でいた



それがどうだ?

このだだっ広い会場には人がみっしりと詰まっている

会場には様々な屋台が並び、お祭り騒ぎだ



さっき「焼きそば買ってくる!!」と控え室を出て行ったナカタも、途中開幕前座の出場戦士だという事が周囲の人々にバレて握手、激励の言葉などで揉みくちゃにされて戻ってきた



そんな状態でもちゃっかり焼きそばとコーヒー牛乳を手に入れてくる辺り流石俺たちの主将だ



「……怖いか?」



隣で俯くクルミに声をかける

だが返ってきた言葉は予想外な物だった



「……怖くないって言ったら嘘だけど…そこまででもないですよ?

だって久しぶりにアミ姉さんにあえるんです」



「クルミ……」



「それに、シン兄さんが一緒ですから、怖い事なんてなにもありませんよ」



大丈夫そうだ

流石俺の妹分、アミの妹だ



ーーと、そこでアナウンスが鳴り響く



『出場戦士の皆々様、出陣のお時間です。ゲート左口からの入場をお願い致します』



その指示に従い、俺たちは戦場に足を踏み入れる

……アミに会える…

そう思うと心臓が脈打ち呼吸が荒くなるのを感じる



「シンジくん、大丈夫かい?」



ナッチが声をかけてくる

影の薄いもう1人の幼馴染の声のおかげで少し平常心を取り戻す



「……ありがとな…

てかナッチお前その兜前見えなくねぇ?」



「大丈夫だよ? いつも髪で顔隠れてるからこういうのは慣れっこなんだ」



そんな軽口でお互い体の震えを誤魔化す

なんの震えかはわからない

武者震い? 恐怖?

どちらにしても戦いが始まればそれどころではない



ーーゲートを通り少し眩しすぎる戦場に足を踏み入れた



目が眩む…

でも不思議と目の前にいる人物ははっきりと分かった



「久しぶりだな……アミ」







〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜



「…………」



返事はない

眩んだ目も少しずつ明かりに慣れていき目の前の人物の細部まで視認する事が出来るようになった



昔と変わらない黒い綺麗な長髪

白い肌、クルミの姉と言うだけあって息を呑むほどの美貌とすらっとした体躯

……そして、変わってしまった冷たい表情



「……アミ姉さん…久しぶり…だね」



その風格と冷たい視線に圧されてか細くクルミが声をかける

だがそのなけなしの勇気すら目の前の王者は気にすら留めない



昔の彼女なら笑顔で俺達に飛びついて来てもおかしくない。それがどうだ



「……お前の身に…何があったってんだよ…」



後悔とも怒りとも知れない感情がふつふつと湧き上がる



ーーそして、始まる。







低く唸りをあげる法螺貝の音色と共に両陣営動きだす



ナカタとヤシキくんが飛び出し、その後ろを俺たち3人が追う構図だ



向こうは絶対王者は微動だにしない代わり他4名…全身黒尽くめの眷属共だろう。

が駆け出す

そして、ぶつかる



大きく振りかぶったナカタの短剣は敵の男がいた空間を切り裂き動きを止めた

先ほどまでしっかりと標的を捉えていたナカタの目は、今は親を探す迷子の子供の様だ



そして俺たちの主将は膝を折り地面に倒れこむ



ヤシキくんは?ナッチは?クルミは?

あまりの展開の速さに状況が飲み込めない



「……っ…! クルミ!! …無事か!?」



まだ戦いが始まって十数秒、既に保身に回る自分の姿に笑いすら込み上げる



クルミを探して首を動かす

俺の目はその道中

高身長な友人が白目を剥いて地面に対して水平に倒れていくのを見かけた



「……っ! くそっ!!」



「シン兄!!」



呼びかけで気付く

クルミを探して敵から意識が外れていた

ナカタ、ヤシキくんがやられ、次は?

なぜ俺だという考えを棄てた?



大きく斧を振り上げる巨体が俺の背後にある

足下に落ちる影からそんな光景がありありと見て取れる

あぁ、ここまでか…



…痛みが来ない

目をゆっくり開けると

足下にあった影は消えている



「……何が起きた…」



いや、聞かなくても分かった

俺の背後にいた男は吹き飛ばされたんだ



それも自らが崇拝する存在に



「相手の主将は私がやるという条件でこの場に立たせているのを忘れたのかしら?」



背後から圧倒的な王者の声がする



懐かしい…

それでいて愛おしい…

俺の初恋の女性ひと



「……よぉ…さっきは無視されちまったからな、改めて言うが…久しぶりだな」



その絶対王者に向き直り

真っ直ぐ見据える

昔は俺と少ししか変わらなかった身長は、俺から10センチほど置いてきぼりを食らっている



あぁ……やっぱ可愛いな……こんちくしょう…



「……あなたがここに来るなんて驚いたわ、シンジ」



四年振りに聞いた大好きな声から発せられる俺の名前

しかしそれに浸っているほど今は暇じゃない



「主将をお探しの所悪りぃが、生憎うちの主将は既にとられちまっててな、人違いだよ」



「……そう…じゃあシンジ……あなたでいいわ」



目の前の女性が剣を構える

とても綺麗な日本刀だ……

アミ……お前にぴったりだよ……



目の前の綺麗な幼馴染のたなびく黒髪に見惚れながら、そんなバカな口説き文句を考えていると自然と顔が綻ぶ



「……後悔……しないでね」



そこで俺の意識は途絶える





筈だった





5メートル程俺の体は後方に流れ、地面に打ち付けられる。その時頰を地面に擦り血が出た。

ただそんな頰の擦過傷が気にならない程の腹の鈍痛



痛い。

がしかし耐えられる

俺の渾身の一撃はあっさりと躱され、腹に一閃ぶち込まれた

体が吹っ飛ぶほどの威力で食らったってのに

……立ち上がれる



目の前は霞み、手足は震える。

が、しかし立ち上がる

ここで立たなきゃ行けない気がした

ここで立たなきゃもう二度と手が届かない気がした



「ゴホッ!!……ッハ!!……っう…!待てよ……!!」



俺にとどめを刺した気になっていたであろう人物は足を止める



ぼやける視界で周りを見渡す

クルミとナッチは他の黒尽くめの男たちに押さえつけられているようだ、見た限りは2人とも大した外傷も無さそうで少しだけ安堵する



遠くから愛しの妹分の「アミ姉さんもうやめて……!!お願いやめて!!」という涙声が耳に届く

……大丈夫だ…お前の兄貴分はこんなんじゃ倒れねぇよ



「……なぁ…おい、お前……なんでこんな事してんだ」



ギリギリの意識の中、絞り出した言葉に答える声はない



「お前の…っ、げほっ……為に…俺が天下獲るんじゃ……なかったのかよ…!!」



それまで俺に背を向け沈黙を保っていた王者は、長い黒髪を翻してこちらを向き直る



「……あなたには…もう…関係ないわ」



そう言うと綺麗な刀身を輝かせながら俺の方目掛け飛び込んでくる



気持ちが猛る



「関係なくねぇ!!!

俺たちに話せよ!! 勝手に離れていくんじゃねぇよ!!!」



家族同然だった

お互い隠し事なんてした事なかった

そんな俺とクルミ…そしてアミ。

3人の絆はまだ繋がっていると信じたい



「もう喋らないで…!」



体中が痛んで立っているのもやっと、浅い呼吸でも繰り返すのがやっとな身体。5日程度でも鍛えておいてよかったと思う

鈍痛の収まらない腹からありったけの空気と音を響かせる



「いんや!! 喋るね!! 帰ってこい!! アミ!!」



「………っ!!」



「俺たちはお前が帰ってくるのを……!」



瞬間。シンジはアミの頰を伝う物を見過ごさなかった



……ドッ!!





ーー待っている…!!ー





ーーそこでシンジの意識は深く落ちていった







第5話に続く

第4話読んで頂きありがとうございました!

この作品に対して思った事や、アドバイス、評価コメントはどんなものでも歓迎しております!

皆さんの記憶の片隅にでもシンジ達が居られたなら感無量です!

次話は2月19日夜投稿予定です!

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