《第3話》 「今日から戦国部」
第3話まで読み進めてくれた人ありがとうございます!
まさかね、ここまで読んでくれるなんて思っても見ませんでしたので嬉しいです!
引き続きご贔屓に!
「だめだ」
「なんでですか」
「だめだったらだめだ」
「いいじゃないですか」
……いつまで続けるんだこのやりとり
授業が終わったら毎時間俺たちのクラスに来て仲間に入れろと駄々をこねるこの妹分。
何度突っ返しても諦める気配が微塵もない
「別にいいんじゃないか?
シンジだって気心知れて連携取りやすい子が居たら助かるだろ?」
そんな事を言い出すナカタ
今はこいつのこの能天気具合にドロップキックをかましてやりたい気分だ
「ほら、タナカタさんもこう言ってますしいいですよね?」
「ナカタね。君達同じイジリしてくるんだなー」
クルミは忘れた、とかイジリ、とかではなく純粋に名前を間違えてる気がする
ちなみに朝からずっと名前イジリを徹底して受けてきた男は、何処か遠い目をして何も書いていない黒板に目を向けている
「とにかく! 戦国部なんて物騒なもんにクルミは入れてやれない!!」
そう言い切り、クラスを出ようとした俺に後ろから声が掛かる
……その声はいつも聞いていてだいぶ聞き慣れたはずなのに
初めて聞くような覇気と声色を含んでいた
「……そんな物騒な部活に入るって言ってるのが愛しの兄さんじゃなければ私だってここまで言ってません」
「……クルミ…」
教室のドアまであと二歩、という所で立ち止まり振り返る
「……泣いてるのか?」
「…っ…っう……泣いて、なんか…いませんっ」
……俺はバカだ。
俺がクルミの事を大切に思っていて傷ついて欲しくないと願ってるのと同じように
また、クルミだって俺の事が大切であり傷ついて欲しくないと思っていた
そうだよな、もし俺が逆の立場だったら入るのを諦めて貰えるように説得するか、諦めて貰えないなら俺も入って守れる距離に居たいと願うだろう
「……ん?」
そこで一つの疑問が生まれた
クルミは戦国部に入る、とは言ってるものの戦国部に入ると言った俺を止めようとはしなかった
普通なら先に止めるだろう
「なぁ、クルミ、俺が戦国部に入るって事自体は別に賛成なのか?」
素朴な疑問をぶつける
涙声で嗚咽を漏らしていた少女は少し落ち着いた様子で顔を上げて答える
「それは別に構いませんよ、だって兄さんがやっと思い出してくれたんですもの、それの方が嬉しいです」
まだ言葉は弱々しいが、その顔には柔らかな笑顔が見えてホッとする
しかし思い出す?俺が?何を?
戦国部なんて今まで縁もゆかりもなかった
思い入れなんてあるはずもない
「なぁ、思い出すってなんの話だ?」
その言葉を聞いて少女は目を丸くする
唯でさえぱっちり二重で大きい目が更に大きく見開かれる
わー、可愛いなーなんてほっこりしていた俺はその次に美少女の口から紡がれる言葉で思考が停止する事になる
「え? だってシン兄さんはアミ姉を倒す為に戦国部に入るんですよね?」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「僕のお嫁さんになって下さい!」
「いいよ…シンジくんが天下とったらね」
「……え?」
俺とクルミは本当の兄妹ではない
それなのになぜこれほどまでにお互い信頼し合っているのかと言うと
それを説明するには欠かせない人物がいる
ナガセ・アミ……クルミの実の姉であり俺の初恋の人だ
俺たち3人…いや、ナッチも入れて4人か
4人はかつて孤児院で出会いそこで幼少期を過ごした
俺とアミとナッチは同い年、その一つ下にクルミがいる。そんな図式だ
ナッチは小学校卒業のタイミングで遠方に住んでいたという遠い親戚に引き取られこの地を離れていった
俺とアミとクルミの3人は、今俺とクルミが住む家の大家さんに引き取られ、3人であの家を好きに使っていいとのことで
まだガキんちょだった俺たちは子供だけであの大きい家に住めるんだ、俺たちの国だ、なんてはしゃいでいたりした
しかし、事態は急変する
俺とアミの中学校入学式の朝、リビングのテーブルには突っ伏して泣き崩れるクルミと一枚の書き置き…
「行かなければならないところがあります。
シンジ、クルミの事よろしくね
アミ より」
ーーそれきり俺達の国から大事な人が一人消えた。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「シン兄さん? どうしたんですか?」
クルミの声で意識が覚醒する
あぁ、どうやら自分の世界に入り込んでしまってたようだ
周りのナカタ達も少し心配そうな顔色だ
「あぁ、大丈夫だ、何も問題ない」
そうは答えたが未だに頭の中が整理出来ない
アミを倒す? 俺が? なんで?
というよりアミはどこでなにをやってる? 何故連絡の一つもくれないんだ?
まるで回り過ぎて三半規管がエラーを訴えるかのような目眩に襲われる
少しずつ言葉を捻りだしてクルミに答えを求める
「……アミを、倒す…ってなんの事だ…?
俺は戦国部に、入る…って、それだけだぞ?」
言葉がとても稚拙だ。
こういう時、語彙力、文章構成力ってのは必要だな、と感じる
クルミの少し動揺している感じが伝わる
「え?だって戦国部に入るって事は現天下統一者のアミ姉さんを倒す為に入るんですよね?
違うんですか?」
さっきまでぐるぐる回されていたようなひどい目眩がそこで止まった
「アミが……天下統一者…?」
4年前、急に俺たちの前から姿を消して何をやってんのかと思えば天下統一?
あいつほんとなにやってんの?
今まで話の蚊帳の外にいたナカタとヤシキくんが身を乗り出して会話に混ざってくる
「なんだ?お前らナガセ・アミと知り合いなのか!?」
「……あ、あぁ、まぁな
そんな凄いやつになってるなんて知らなかったけど」
テンションのあがった2人の勢いに多少気圧されながら、横目でチラとナッチの方を見る
俺の視線に気づいてニコッと微笑むその様子からナッチも知っていたんだな、と察する
「にしても。
そうか、今の天下統一者はアミなのか…」
「そう……どこで何をやってたのかと思えば……笑っちゃいますよね
でも凄いことですよ、去年まだ1年生だったアミ姉が天下獲ったんですから」
そう静かに実の姉の快挙を喜ぶクルミを見てると何故だが「なんで俺たちに言ってくれなかったんだ?」なんていう腹立たしい感情も自然と消えていく
そしていきなりテンションが高いままのナカタが語りだした
「戦国部は部活だからよ、野球部の甲子園みたいにトーナメントで戦うんだ!
それを傾校戦って言うんだけどよ、知ってるか?
ちなみに傾校戦の決勝は年度の最後だから3月末になるんだ、それで勝った方は天下統一!ってわけよ!」
俺詳しいだろ?みたいな感じで胸を反らせるナカタ
周りの反応を見る感じだと俺以外は皆んな知っているようだ
と、ナカタは反らした上体を戻して話し始める
「さて! シンジが戦国部について少し詳しくなった所で話を進めるぞ!
シンジ! クルミちゃんは加入って事でいいのか?」
……正直まだクルミの参加には賛同したくないが、天辺にアミがいるとなれば話は別だ。
クルミの事は俺が最大限守りながら戦おう
「……あぁ、わかった、クルミも良いんだな?」
とたん、笑顔になるクルミ
桃色のポニーテールが大きく縦に揺れる
「……はぁ…いいよ、ナカタ、話を進めてくれ」
「よし! じゃあメンバーが5人揃った所で戦国部について説明するな!」
【戦国部について】
・戦闘ルール…武器はどのようなジャンルでも良いが硬質ゴム材質の武器の使用を命ずる。
本物の武器を使用した場合は厳正なる処罰を下す。
・戦国部部員は最大5名の登録人数で傾校戦に挑む事が出来る
・傾校戦は5vs5の、最大10名のバトルである
4月〜3月の11ヶ月を通して傾校戦は実施され、優勝チームは天下統一となり、優勝チームの主将は天下統一者としての栄冠を手にする
・他校との親睦を深める意味合いを込め、不定期で模擬戦を開催する事を許可する
「…とまぁこんな感じだな!」
だいぶマニュアル通りに読んだ感じのあるナカタの演説が終わり
俺は湧いて出た疑問をナカタにぶつける
「なぁ、模擬戦ってなんだ? 傾校戦とは別なのか?」
「あぁ、別もんだ!
傾校戦は大会、模擬戦は練習試合みたいな感じだな!」
「でも模擬戦をやると手の内が相手にバレて対策を打たれやすくなるからどこも滅多にやらないみたいだけどね」
と、ナカタの言葉に今まで黙って話を聞いていたナッチが補足する
「…オッケーだ。
大体内容は掴めてきた、ありがとうな2人とも」
ナカタは元気に「おう!」と、ナッチは静かにニコリと笑って返してくる
…2人とも本当にいい奴だ
俺以外の連中は質問も特に無さげな様子でそれを確認したナカタは話を進める
「よし! そんじゃ早速入部届け出しに行くか!!」
5人は立ち上がり教室を後にする
入部届けを出しに職員室まで行く道中俺は何気無く目をやったナッチの口角がいつもより少し弧を描いているような気がした
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
あれから5日が過ぎた
あの日、入部届けを出しに行った俺たちは驚愕の事実に直面する
「戦国部…あるのに部員が0?」
「そうなのよぉ〜
やっぱり過酷な部活だからなのかしらねぇ、誰も居ないのよぉ〜」
オカマ風なゴリマッチョ教師がそう答える
この先生はサブロー先生という、自身の名前が「可愛くなぃっ!」という理由で気に入らないらしくサブちゃんと呼ぶと機嫌が良くなる
それに今はこのオカマの話はどうでもいい
今は戦国部が機能していないって方が重要だ
これで部にすら入れなかったら天下どころの話じゃない
「……でも部は存在してるんですよね? なら僕達が入部するのは構わないって事でいいですか?」
流石ナカタ、先生に対する口調は丁寧だ
サブちゃんは優しげな、そして不気味な笑顔を浮かべ
「えぇ!もちろん構わないわぁん!」
そうして俺たちは戦国部としての活動を始める
まずは戦闘能力の確認と向上
元々バレー部だったヤシキくんがメンバーの身体能力を判断してトレーニングメニューを作ってくれた
俺たち男子はまぁ余裕だろうがクルミは大丈夫か? と心配していた俺だが、なんの心配もいらなかった
むしろ1番体力があったのはクルミだった
流石アミの妹、といった所か
……俺より足が速かった事がちょっと悔しかったとか思ってないからな
俺とナカタはまぁまぁついて行くことが出来たがナッチは元来運動というものが得意ではないため辛そうだ
何故こんなに基礎的な部分ばっかりやってるのかと言うと、剣術やその他特殊な武器の訓練は後々でいい、まずは身体能力の向上。
という事だそうだ
そうこうしてるうちに5日が経った
毎日続くハードトレーニングに体は声にならない悲鳴を上げ
朝起きる度に体が漬け物石にでもなったのではないかというような錯覚に陥る
今日もいつもと同じように制服に袖を通し、クルミの作ったパーフェクツな朝食をかっ込み我が学校に赴く
そしていつもと同じように授業を受け
1時間目、2時間目、etc……
授業内容は睡眠学習で覚える派の俺からしてみたら、さして苦痛ではない授業時間を終える
放課後、いつものようにジャージに着替え動きやすい格好で裏庭に集まった俺たち
だが主将であるはずの男の姿がない
「あれ?ナカタは?」
「なんかサブロー先生に呼ばれてどっか行ったよ、すぐ戻るとは言ってたけど」
俺の質問に高身長な青年ヤシキくんが答える
と、そこで丁度よく現れる主将、その手には一枚の紙が握られている
「遅かったな、サブちゃんとなにを話してたんだ?」
「…………」
答えない。
ナカタがいつもの様子と違うのは誰の目にも明白だった
そして次の瞬間彼の口から出た言葉に俺たちは目の前が真っ白になった
いや、ほんとに
「……今年の傾校戦の「開幕前座」に俺たちが選ばれた…」
……言葉が頭に追っつかない…
なんとか絞り出した答えは
「は?」
の一言のみ。
「シン兄?「かいまくぜんざ」ってなんですか?」
俺の裾を指でちょいとやりながらクルミが聞いてくる
俺自身まだ話が飲み込めてない状態だったが可愛い妹分に「裾ちょい」なんかされてしまったらすぐに答えない訳にはいかない
この数日、ネットで調べ上げた俺の付け焼き刃程度の知識をひけらかす
「……開幕前座ってのはな、一年の傾校戦が始まる最初に現天下統一チームとランダムに選ばれたチームが模擬戦をして、これから始める傾校戦を盛り上げるってやつだ」
……クルミが知らなくても無理はない
俺だってアミが天下にいるなんて知らなかったらこんなに戦国部について調べてない
ナッチもヤシキくんも声が出ない様子で立ち尽くしている
まだ発足したての俺たちが最強と戦うってんだ、当たり前だ
「わかった! それで俺たちが選ばれたってんならやれるだけやってやろうぜ!
主将!そんでそれはいつやるんだ?」
この空気に飲まれまいと俺は胸の前で右手のパンチを音を鳴らして左手に沈め、あからさまな空元気で声を上げる
「……今日だよ」
俺の頭の上で雀が鳴きながら2、3羽飛び去って行く
うーん、それは空元気も無理だわ
第4話に続く
第3話読破ありがとうございます!
2話の後書きで「バトルシーン入ります」って言ってたのに入りきれなかったです…
期待してくれてた人には申し訳ないです…
次話の投稿は明日の20時〜21時の間を予定しています!
4話も楽しみにしていて下さい!