《第1話》 「ぷろぽーず」
皆さんの小説ライフに少しでも協力出来れば幸いです…
ーー今日はみんなでたくさん遊んで楽しかったね
ーーそうだね、いつも私たちとクルミの3人で遊ぶ事が多かったもんね
茜色に着替えた空と、食べ物を欲して堪え難い切なさを訴える体が現在の時刻を2人に教えてくれていた。
いや、時間のせいだけではない。
幼稚園帰りに複数人の友達とかくれんぼや鬼ごっこをあれだけしたんだ、この空腹もなんら疑問にはならない。
ーーアミちゃんは今日疲れた?
ーーんー…少しだけね、シンジくんは?
一日中散々走り回って、心地よい倦怠感に包まれながら2人はそのまま歩を進める。
ーーぼくはぜんぜんつかれてないよ!
元気いっぱい!
ーーだと思ったよ、シンジくんは元気なくなることないもんね
それきり、なんて事ない会話をしていた2人の間に少しの間沈黙が横たわる。
少年は口の中がカラカラになるのを感じながら、ありったけの唾液をゴクリと喉をすべらせる。
その瞬間、それまで同じ歩幅で少女の横に並んでいた少年は、大きく踏み出し少女の行く手を防ぎ振り返る。
ーーアミちゃん!将来ぼくのお嫁さんになってください!!
少年の少年らしい愛の言葉が閑静な住宅街に響き渡る。
幸い周りに人は居なかった為観客はいない、ただ、見られていたとしても今の少年には関係のない事だった。
少女は一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑顔になって
ーーいいよ…シンジくんが天下をとったらね
ーー…え?
「……眩しい」
清々しい朝のはずが、カーテンの隙間から差し込むうざったいほどの日光で顔を覆われ、外の世界の明るさに反比例して気持ちは暗くなった
「……なんか…すごい懐かしい夢を見ていたような気が…」
「シン兄起きてますか? 入りますよ? ズボン履いてないんなら今すぐ履いて下さいね。
それでパンツ見られても悪いのはシン兄ですからね」
ドアの前から可愛らしい声で恐ろしいセリフが聞こえてくる
この声の主は本当に入ってくる
いつもならなんの問題もないが今日に限ってパンツ一丁で寝てしまっていた、こんな醜態を妹同然の存在に見せつけたくはない
陽の光を浴びて多少覚醒していた意識を急速に叩き起こす
先ほどまでうざったいと思っていた日光に今は少し感謝の念まである
「待って待って! 今履くから! 10秒待って!」
「いいえ! 待ちません! 私は確認取りました!
これで私が入ってシン兄のパンツを見てしまってもしょうがない! えぇ、しょうがないです!」
シンジはいまだかつてこれほどまでにズボンを高速で履いた事があるだろうか。などと呑気なことを考えながらそれでも手は素早くズボンを腰の位置まで上げていた
「おはようございます、シン兄! …残念です…」
「おはようの後に続く言葉としては適切じゃないね?」
敬愛する兄の下着姿が見れなかったことで一気にしょんぼりする桃色の髪の少女
その綺麗な髪を後ろで、馬の尻尾よろしく一つに束ね、高校生らしい可愛らしい制服姿にエプロンというこれまたマニアが見たら崇め奉られてもおかしくない風貌だ
「朝ごはん出来てますよ、着替えたら降りてきてくださいね」
「あぁ、ありがとうなクルミ」
そう言うと、パタパタと階段を降りていく可愛らしい足音を聞きながら寝間着を脱ぎ捨てる
「今日から2年生か、まぁ何が変わるわけでもないけどよ」
そう呟きながら制服に袖を通し、学校指定の肩掛けバッグを片手に朝食のいい匂いに導かれるまま階下へ降りていく
「今日からクルミも俺と同じ高校生か〜、早く友達作れるように努力するんだぞ〜」
「なんですかいきなりそんなおじさんみたいな喋り方。
それにそこは全然心配して貰わなくても大丈夫ですよ」
クルミが作った味噌汁や焼き魚といったパーフェクトな朝食に舌鼓を打ちながらたわいもない会話を続ける
「いやいや、初めて会うクラスメート達に可愛い妹分が気圧されて仲間外れにされやしないか心配なだけだよ〜」
「友達作るのは苦手じゃないですけど、多分シン兄のところには私入り浸りますよ」
「いやいや、それじゃダメだろ、友達作りは最初のうちが肝心なんだぞ」
「わかりました、でもシン兄のクラスには行きますからね」
「いやわかってねぇじゃん」
軽口を叩きあいながらいつもと同じような朝食の時間、一ついつもと違う点があるとしたらクルミが今日から1年生として俺の学校に入学してくることくらいか
「しかし、クルミが頭良いの知っていたが、まさか入学式で新入生代表の挨拶を任せられるまでとは知らなかったなー」
兄として誇らしい反面、自他共に認めるオツムの弱いシンジは勉強が出来るという感覚がイマイチわからない
「テストの点数が良かっただけですよ、ってそれより時間! シン兄今日は朝早く学校行く用事があるって言ってませんでした!?」
「うぬぉぉぉぉ!!! やばい! 先生にぶっ○される!!」
残りの朝食を一気に喉奥まで流しきり、カバンを掴んで玄関へ飛び出していく
「んじゃ! 先行くな! クルミも遅刻すんなよ!!」
「いってらっしゃ…もういない」
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「ギリギリ間に合った…」
理科準備室と書かれた教室の前に、既に満身創痍の状態で膝に手をつく
足は走り通しだった為ガックガクで使い物になりそうもない
なんか今朝見た夢も足が疲れていたような気がする…いや、ここまで疲れてはなかったか
そんなことを思いながら教室のドアに手を伸ばす
「5分遅刻だばかもんが」
背後から、自分をここに呼び出した男の声が聞こえ動きがとまる
振り返らないまま、冷や汗をかきながら男に問いかける
「…あれ? 約束の時間って8時5分じゃなかったでしたっけ?」
「なんだ8時5分って、そんな中途半端な時間設定するわけないだろが」
「あー、じゃあぼくの覚えてた招集時間が違ってたんですね、それは大変もうしわけ…」
「自分のミスは早いうちに認めておいた方が身の為だぞ」
「すみませんっした」
シンジの謝罪には目もくれず理科準備室へ入って行く高身長、あごひげ、短髪、白衣、といういかにも「オッさん」な男
呼び出した要件を早く済ませようとガサゴソと書類の山と化している机を漁る
「ところでコトブキ先生、今日俺を呼び出した用事ってなんですか?」
「あぁ、そういや言ってなかったな、これやるよ、ほれ」
そう言って無造作に投げられたのは
「……? なにこれ?」
「美味しい美味しいチョコレートだよ」
「……なんで?」
「この前海外旅行行ったんだよ、そんでそこでこのチョコ食べたんだけど美味かったからお土産だ」
「……え? これだけ?」
「あぁ、もう他のやつは配り終わってんだ、残ったのそれだけだからやるよ」
「いや、量の話じゃなくて」
にひひっと少年のような笑顔でチョコを渡してくる中年に呆れ、体の全部の力が抜けて行く
「俺もういくわ」
冷め切った目で自分の目の前のアホすぎる中年を一瞥し、ため息をつきながら自分の教室へと足を運ぶ
「おぅ、チョコ溶けるから早く食べろよー」
歩きだしたシンジに背後から声がかかり、それに対して背中越しに左手を上げて応える
チョコを片手に去っていく少年を見ながら白衣の男は1人呟く
「……ったく、あの調子じゃこの前の新聞なんか見てねぇんだろうな…」
無精髭の生えた顎を指で掻きながら男は自分の机に目を落とす
そこには一枚の新聞
見出しには…
「前代未聞!! 太刀使いの悪鬼羅刹!!
ナガセ・アミがたった1年で天下統一!!」
2話に続く
ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!
ここからどんどん話を進めていきたいと思っているのでこれからも是非シンジ達と共に、楽しい戦国スクールライフを送って下さい!