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出来事

作者:

 人を殺したことがあります。

 その死体を埋めて隠そうと、夜を待ってある山に入ったのですが、いざ掘り始めたら、地面から二十センチくらいのところで一枚の免許証を見付けました。

 男性のものでした。

 どうしてこんなところにと、不思議には思いながらも、そのまま掘り進めることにしました。

 すると、一メートルくらい掘り下げたところから死体が出てきました。

 白骨化していました。そして、スカートをはいているのが分かりました。

 何か光るものが目に入りました。見ると手に指輪が──かなり特徴的なデザインをしていました。

 きっと犯人は免許証の男です。

 このまま一緒に埋めてしまおうかとも考えましたが、直に犯人に繋がるような証拠を残して行くような男です。一緒に埋めるのは危険だと思い直しました。

 おかげで最初からやり直しです。

 私の死体は、その翌日に埋めることが出来ました。



 その後、あのとき見付けた免許証の男に会いに行きました。

 喫茶店に入った男の隣のテーブルに偶然を装って座りました。そして、持ち帰った指輪を出してテーブルの上に置きました。

 指輪に気付いたときの男の様子は、本当に傑作でした。

「死んだ女のものです」私は彼に向かって言いました。「ああ。ご心配なく。警察に知らせたり金をせびったりするつもりなぞありませんから」

 私は死体を埋めるのに二度手間を取らされたことへの文句を言ってやりたかっただけなのです。

「そうだ。先ずはこいつを」

 拾った免許証を手渡して、私は死体の発見に至るまでの顛末を話しました。

 私自身の殺人も含めてです。と言っても、殺した相手に関する情報などは、さすがに伏せました。

 この、余りに非常識な私の話を、不思議なことに彼は素直に信じました。



 それは意外でした。もっと手間のかかる作業だと私は考えていました。

 私は彼が殺したと思われる女性の死体のありかを知っています。しかし、彼にあるのは私の言葉だけです。彼の立場からすれば、私のおかしな話など信用出来るものではありません。

 ──なのに、どうして簡単に信じたのでしょう?

 私はその疑問を口にしました。すると彼は驚くべきことを語りました。

「山に死体を埋めようとしていたとき、私も同じように別の死体を発見したのです……。しかも別々の二ヶ所で……」

 続けて彼は、

「彼女のことを心から愛していたから、殺害したにしろ、ちゃんと一人きりで埋めてやりたかった……。そのために私は三つも穴を掘ったのです……」



 この一連の出来事によって私には分かったことがあります。

 つまり、我々が思っている以上に沢山の死体が隠されているから、むやみに山を訪れたりしてはならないのです。

 山に用事があったとしても、決して地面を掘ったりしてはいけません。

 そして何より真夜中の入山だけは絶対に避けるべきでしょう。

 私や彼みたいな人間と遭遇してしまうかもしれませんから……。


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