表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様が世界を創り変えたようです。  作者: 詩名時くい
一章
9/9

『少し疲れた日常』

「良かったーーっ! やっと、我が家に戻って来れたーっ!」

 青年の第一声はそれであった。貯め続けた疲労感を一気に開放して寝っ転がるというのは一時の至福に近い。


「ふふっ……相棒は子供ですか。ここは相棒の家ではないでしょうに」

 ニジイロの表情には笑みが零れる。安堵の顔付きは先程戦っていたとは思えない程に美しかった。

「いいや、ここは俺の家だ。しかし同時に、ニジイロの家でもある」

「そうなんですか?」

「このテントはみんなの家だと俺は思ってるからな」

「なるほど……!」

 あのニジイロも感銘を受けたのか今の俺の名言に納得している。

「つまり私たちの家はテントってことなんですね」

 あのー……そういう、雰囲気を壊す感じの受け取り方はやめていただきたいかなって思うんですよね……。

「……?」

 あぁ、相棒といえど都合の悪いところだけ察しが悪いというのか……!


「ほら、相棒。部屋着に着替えてくださいね、今の状態を見る限り、お互い、しばらくは外に出ないでしょうから」


 そう言って、ニジイロはこちらに部屋着を渡し、テント中央にあるカーテンに手を掛け、室内をふたつに両断する。

 流石に相棒と言えど、男女間の関係なので、着替え、入浴などなどには気を付けなければならない。

 しかし、男としては女子の着替えシーンとか大いに気になるところ……!

 でもバンダナの一件もあるし、あんまり怒らせたくないなぁ……とも思う。

「……あっ」


「どうしたんですか、相棒?」

 カーテンに映る黒い影は、着替えながらもこちらへと振り向く。

 そういえば俺は、ニジイロに謝らないといけないことをすっかり忘れていた。

 そんなんじゃ俺はニジイロに相棒と呼ばれるのに相応しくない。


「……昨日は、ごめんな。バンダナと同等なんて言っちゃってな」


「……ふぅ、気にしてたんですか? 私がそれくらいで相棒に本気で怒ると思いますか?」


「うぐっ、確かに……。でも! 夜、起きた時にニジイロが居なかったから怒って飛び出してったのかと心配で……!」


「確かに、夜は居ませんでしたが、それは辺りの見廻りを行っていたからです。モンスター等が現れたら危険ですから」


 言われてみればそうだ、この話に俺は納得するしかないだろう。


「しかし、あの時に相棒が起きていたのは本当に感謝しますよ」


「……? 何のことだ?」

「ふふっ……何でもないです!」

「……変な奴だな。あの時は、ちんぷんかんぷんで大変だったってのに!」


 自分の着替えが終わるとカーテンに手を掛け、一応前もって、開けるぞと言っておく。

 大丈夫ですよ、の声が聞こえたのでカーテンを開き、二人の空間にしては異様にこのテントは広いなぁと思った。一応、新しい仲間が出ても二、三人入れるように大きなテントになっている。

 しかし、なかなか増えないから活躍の場が今まで全くないんだよな。一応、荷物置き場が増えて助かってはいるんだが……そういうことではない。


 互いに部屋着は見慣れたものだ。互いにお洒落な格好をしている訳ではなく、ただ寒さを凌ぐ用に作られた一般的な服を着ている。暖かい素材で作られており多少、もこもこする。


 とりあえず座ろうとした瞬間────。

────ぐぎゅるるる〜。

「「あっ……」」


 どうやら、俺の腹の音は、戦いの後の疲れなど知らないようだ。少し、ニジイロに気付かれたのが恥ずかしいと思った。


「そういえば何も食ってなかったなぁ……ニジイロ様? 何かご飯を作ってはいただけないでしょうか?」


 彼女は少し考えるように首を傾げる。

「そうですね、何か作りましょうか! それでは、しばらく待っていてくださいね! 疲れの取れる料理を作ってあげますので!」


 ニジイロはテント端に置かれたエプロンを手に取り着用する。


「まぁ疲れたから、俺はこのまま横になってるわ。ウチのコック長自慢の料理で、この疲れを癒してもらおうかね……!」 


「良いですね、これから挑むのは美味の食材、美しく切り捌き、調理してみせましょう!」


……トントントン……トトトントントントン。


 聞こえの良い音が耳に流れてくるのだが、それがまた面白いと思ったりする。


 とりあえず、落ち着いたことだし過去を振り返るか……。


 まず、一点。

 疑問に残るのが、氷蠍あいつの事だ。

 正体不明な氷の怪物、戦って分かった事だが、命という概念は全く無く、それでも心、感情のようなものを強く滲み出していた。


 実力差は圧倒的に格上。こちら側は初見殺しの技ばかりで圧倒しただけでしかない。これから、二度目の戦闘になってしまえば対抗策がまるで無い。


「どうしたものか……」


 そして二点目、入ったが最後ここから帰ってこれないという話だ。

 氷の砂漠に人骨らしきものは無く、遺体が転がっているということも無かった。氷蠍が持って帰ったという可能性も否定は出来ないし、何処かに閉じ込め、監禁している可能性もあるはずだ。

 ここに生命体の気配は無い、それでも何かが裏で蠢いているとしか思えないんだよな。


 荷物置き場、ダンボール箱の上に乗っている時計を見る。

 それは今、一月八日、午前十時頃だと教えてくれている。

 

「ニジイロー! 料理は後、どれくらいで出来そうだー?」


「そうですねぇ……。あと十数分ほどお待ちください!」


 料理をぐつぐつと煮る音が聞こえる。煮物かな?


 残り十数分もあることだし、最後の疑問だ。

────何故、こんな場所に大迷宮があるのか、だ。

 人類が人工物として造るには場所や意味、時間などが釣り合わない。神様が故意的に創った場所だろうとは思うが、理由が不明確なんだ、ここは。

 例えば天空に島を創るのには、空を飛ぶ生物への住処の提供が目的である。他にも、魔王城なんかも、残酷な人間が魔物差別をして被害を受けないように国家を作り、法を整備させる為の土台という役割を持っている。

 必ず、意味が無いという事は無く。この場所にも神様が意図を持たせているに違いない。

 氷蠍の住処にしては不鮮明過ぎる回答だ。

 

 この場所の意味を理解する事。それが、神様から俺達への挑戦状であるのだろうか。それなら、上等だ! 受けてやろう!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ