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神様が世界を創り変えたようです。  作者: 詩名時くい
一章
8/9

『刀が有れども』

 刃の交わる音が響く。


 サソリと交戦しているにも関わらず、ニジイロは俺に質問を投げかける。

「それで、足の怪我は大丈夫なんですか? 相棒?」

 ニジイロの登場に感極まっていたが、足が痛いのは事実だ。無理をするのはよろしくない。


「大丈夫とは言えないな、回復は出来そうか?」


 サソリを前に、回復というのは難しいだろう。それでも、ニジイロは完璧主義者だ。諦める事は無いに等しい。答えは知っている、知っているからこそ頼るところが、自分は悪い人間なのだと知ってしまう。


「お任せを、戦いながらで良いのなら。というか知ってて言ってるところ最高に悪人ですよ!」


 そうすると、ニジイロはサソリの攻撃を刀一つで上手く弾く。流石は刀使い、攻撃を見切る能力は普通の戦士よりも何倍も磨き上げられている。

 彼女は余裕な表情で、攻撃を躱し続け、敵の行動を記憶する。

 弾く、躱す、流す、交わすッ! 連続攻撃に対しても、ニジイロの刀はどれも理想的な避け方を行うのだ。


「その攻撃は何です、力押しがしたいだけの攻撃など。氷塊で出来た巨体の癖に、中にはぬるま湯でも流れているんですか?」


 サソリは、刃を力一杯振り回す事が無意味だと知る。刀相手に、遠心力を投じた豪快な攻撃など、受け流されてしまうのみ、と。そして、ぬるま湯と称されては、サソリの怒りが湧き上がる。様々な攻撃を撃たねば、この女子おなごは討てないと思ったのだろう。


「……⁉」


 攻撃は、振り回し連続斬撃から変化、強烈な力を使い、連続乱れ"突き"へと変わる。


「ニジイロ……ッ⁉」


 サソリはギチギチと嘲笑う。強烈な突きは受け流すことなど許されない、何とか防ぐが勢いに押されてしまう! 刀への負担も大きく、このままなら状況は劣勢に陥るかもしれない。


「────✕✕✕!」


 勢い付いたサソリは両足六本を上手に使い、回転する。巨体が砂漠で回転すると、氷粒が飛び散り、ニジイロの視界と集中力を奪う。


「アイツ……! 俺の魔防結界の真似しやがったな……!?」


 確実にあの攻撃のヒントは、俺が結界発動時に飛び散らせた氷粒から得ているはずだ。


 ニジイロはそれでも、防ぎ続ける。

「赤は炎、誉れを燃やす炎であれ……」

 そして一言、何かを唱えて。


 勢い付いたサソリの連撃は続く、どうすればニジイロに勝ち目があるのかを俺は理解出来ていない。

 ただ、彼女自身は何かの策があるようだ。

 今の一言がそれを確定付けた。

 連続の突きは、何とかニジイロが刀を器用に使い、力を分散させてはいるが……。どうしても、身体が少しだけ押されていってしまう。


「まだまだぁっ!!」

 力が弱くとも、踏ん張りで少しだけ何とか押し返す!

 サソリは体制が崩れ、ニジイロはこの隙を上手く突く。


「相棒、タイミングは今です!」


そう言って、俺のところへ駆け寄り、魔法を使う。

「────回復魔法ヒーリング……! 多分、これで大丈夫です。立ち上がれますかッ!?」


「あぁ、大丈夫だ……」

「そうですか、それは良かっ……!?」

 ニジイロが安心している最中、サソリは姿勢を整え、背後からの不意討ちを狙う。

 俺が咄嗟に伝えようと口を開く。しかし、声を出そうとした瞬間、硝子細工でも触るかの様な共鳴が鳴りながら、刃は交差する。


「その程度の攻撃、見破れないとでも思ったか……!?」


 完全に、ニジイロが悪鬼羅刹の性格をした剣豪だと常々思う。戦場で性格変わりすぎだ! 怖いんですけど!


 そしてまた、サソリの回転攻撃が始まる、そして連撃へと続くのか──?


 少女は完璧を目指す、声高らかに口を動かす。


「────戦の醍醐味は武勇では無く、策にある。そして、戦の面白さはその策を乗り越える武勇である!」


……武士もののふよ、刀を振るう人生を磨き続けるのは良い事だが、戦の舞台を忘れていよう。


──詠唱開始。


「攻めの舞台は整った。舞台は氷、敵も氷、ならば対立の炎で押し通せなくては雅でないな。私が唱えるは、業火を舞わす、熱の円輪……」


 ニジイロが真剣な口調で唱えると、周りの温度は急上昇する。炎が出現し、ニジイロの周辺をその炎が吹き上げる‼

 そして、炎が薄れた上空から突然、何処から現れたのか摩訶不思議な、白い"魔術用"ローブが

ふわりふわりと流れて、落ちる。ニジイロはそれを手にし、一瞬で……着る! 見事な早着替えであり、幾多の練習を積んでいるように見えた。

 忘れられた様に、更に上から魔法使いがよく着けている、とんがり帽子が頭上に華麗な着地を決める。見ている俺からしたら間違いなく芸術点で十点はあげているだろう。勿論、とんがり帽子も白色である、二点セットで売っていたのだろうか。


 そんな事を考えているうちに、炎の勢いは凄まじい物になっていた。詠唱も終わり、後は魔力を吹き飛ばすのみだろう、ならば少女は、唱えねばなるまい。


「受けてみよ! 耐えてみよ! ────爆裂魔法エクスプロードぉおおお‼」


 現時点での最強の一撃。天まで昇る炎、威力は絶大、空を目指す姿はまさに龍が如く。


 魔法がサソリに着弾すると、強烈な爆風が襲いかかる。俺は地べたに這いつくばっているので大丈夫だが、サソリの方は回転をしているのでコントロールが自由に効かない。

 空に上がるのはサソリであり、炎龍はそれを喰い破る。サソリは、たじたじになり落ちていき、再起不能となるだろう。

 これが、これこそが……

「決まったーッ! ニジイロさんの魔法剣術……ッ! マジヤバのリスペクトっス!」


「キャラ変わってますよね……相棒?」

 顔が少し引きっていたが、それでも、すぐに彼女の顔は安心した顔付きに変わる。


「でも、まだ安心出来ないぞニジイロ」

「分かってますよ相棒、私に刃を交えるならば強くなってもらわないと……!」


そして、奴はまた立ち上がる。

「────✕✕✕✕✕……✕✕✕✕✕……」

「──氷蠍よ、まだ挑みますか?」

「────✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕! ✕✕✕!」


 何かを言い残し、蠍は高速で逃げていく。

 然し、ニジイロは何かを理解したようで……。

「────まだだ、次は必ず負けないぜ! さらば! ……ですか」

「よく、言葉が分かるな……俺だって何となく当てずっぽうで読み取ってるのに……」

 すると、彼女は離れていく宿敵に向けて、いや……向けたのかは分からない。然し、向けている様に見えたその様で、

「互いに伝えたい想いは刃に込められていますから……」

 既に太陽は昇り、朝日気持ち良い快晴であった。

 ニジイロから、立てますよね、の一言を貰い、立ち上がる。ニジイロの回復魔法が効いている証拠なのだろう。

 どうやらここからテントに戻るらしい。お腹も空いたしロクな活躍も出来ていないのでもう帰ろう……。

 そして、俺とニジイロは互いに頷き、帰る前に一言。


「「また会える日を待ってるぜ、相棒ライバル……!」」


 皆が皆、帰路にしっかりと足跡を残しながら。相棒同士のいつかの日まで、分かるように……。

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