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神様が世界を創り変えたようです。  作者: 詩名時くい
一章
7/9

『刃は惹かれ合い、その名は呼び合う』

 最後の一撃は凄惨に、サソリの頭部に刺さる。


「✕✕✕✕✕──✕✕✕──⁉ ✕✕……✕✕✕✕✕……」


 サソリは最期の生を叫び、死ぬ。奴が分かり合える存在であれば、互いに笑い合う未来があればいいなと思うだろうか。

 虚しさもあるが、それは、殺す殺されるの関係であるのだから仕方が無いのだろう。この地に来たるが最後、奴と自分は戦わなくてはいけないはずの運命なのだろうから。

 死んだサソリに刺さる刀は選択術の能力を使い、役目を終えて消え去る。

 殺される事が無いと分かると同時に、身体に力が抜け、右足に激痛が走る。体に無理をしたからなのか、右足はニジイロにテントで魔法やら薬なんかで回復治療をしてもらうとして、後はどうやって帰るか……だな。

 戦いは終わり、吹雪はいつの間にか止んでいた。星灯りは美しいと思ったのに、儚さを感じる。座り込んだまま考えると、お腹が空いていたという事が分かる。そういえば今日は色々あって何にも食ってないな……。

 お腹が鳴る。虚しい音が氷粒砂漠に鳴り渡る。

「いっそのこと、この降り積もった雪を食えないものか……?」

 とりあえず何かしら口に入れて紛らわせるのが一番だが、雪を食うのは人間として間違っている気がする。

 そういえば、ここの氷粒は溶けないという謎がある。しかし雪は? と疑問が生まれる。

 雪を手で握り確認する。

 …………うん、普通の雪だ。でも、俺の勘が食ってはいけないシロモノだと訴えかけている気がしたので食べるのは止めよう。 

 飯はテントで食う、きっとニジイロが美味しそうな料理を作って待っているはずだ……!

 料理に関して、ニジイロに道具と材料を渡せば理想的な料理を提供してくれる。彼女が作る料理は格別だ、何処で習ったのか分からない手捌きは武人ではなく、料理人として振る舞われるものだ。ニジイロはまさしく、相棒に相応しい完璧主義者だと思えた。

 そこに横たわり続けているサソリが食えればいいが、虫だし氷だし……よろしくない。

 お腹が空いた。帰りたい!

 帰る為にはどうすればいいかと模索しようとしていたその時だ。


「────✕✕✕✕!!────✕✕!!」


 俺は聞き覚えのある声が鳴るという事に違和感を覚え、緩んでいた心が縛られるようにキュッと締め付けられる。

 

「おいおい……マジかよ……⁉」


 死んだ生命が復活する。今までの世界の常識を打ち破る行動だが、今の世界ならもはや、おかしい事ではないらしい。

 それが"生存権三つの法則"。

 だが、それは自我を持つ存在。この場合の自我というのは人間の感情、目的、言語を完全に理解出来ているという前提の話であって、人間以外の、しかも人間に全く似ていない存在が得られる権利ではないはずだ……っ‼

 法というのはその人間らしい・・・・・という存在にのみ適用され、その他の存在には法に縛られず、そのまま死ぬはずだ。

 それに、死んだサソリの体はずっとそこにあった! もしも蘇生するとしても、ならば一度回収されるはずだが、奴は回収されていない……⁉

 つまり……?

 そもそも、このサソリは生命として命が元から一つじゃない。もしくは……?


 ────このサソリに命という概念が無い……?


 元から無限に再生する機械か何かなら、勝ち目は無いだろう。しかし、奴の動きは本物そのもの! どう見間違えたとしても生命としか見れないのだから……ッ!


 「…………。…………。」

 考えろ、考えるんだ俺! 黙り込んだところで埒が明かない!

 先程与えた傷はそのまま残り続けているが、頭部が急所でないのなら、もはや手探りで行うしかないのだろうか。しかし、それでは埒が明かない! その上、こっちは体の限界が来てるんだぞ……⁉


 生き返ったサソリは少しずつ近づいて来る、奴が生きる理由はきっと俺への復讐、報復しか残っていないだろう。

 動けない自分は、どうしても今を抗う術が無い。魔力は尽きた。身体は尽きた。悩む頭も力尽きた。

  

「あぁ、安心したと思ったのにな……」


 呟きは遺言として。思い残しを語るのみ。


「ごめん、ニジイロやっぱり俺、謝れないかもな……」


 氷蠍は、憎悪にまみれ、殺すだけに特化して尚、何故か情を捨てきれてない様に伺えた。それは、先程の俺のサソリに対する思い残しがあったからだろうか、どうにも、気が許せる宿敵の様な気がしたんだ。おそらく、サソリ側もそう感じているに違いない。しかし、それを思ったのはサソリが死んでいた時だ。本来なら言葉も通じぬ異種族に感情など伝わらないはずなのだが、きっと勘付いてくれたのか……。

 なら、仕方無いのか。俺らは互いに本当に短い付き合いだった。俺らは殺し、殺される、そういう運命なんだよ……。

 死ぬのが嫌なのはお互い様だ。納得がいく相手になら俺は殺されても構わない。きっと、あのサソリは絶対に心が通じる相手だと信じているからな。


「────✕✕✕✕、✕✕✕……✕✕✕✕✕!」


 どうやら、サソリの言い分から、サソリが綺麗な殺し方にしてくれるらしい。その大きなはさみは俺の心臓を指し示し、刃の付いた尾っぽをしならせる。見る限り、心臓を一突き……だろうな。

 

 最後に、ニジイロの顔が見たかったなぁ……。

 どっちみち死んだ後は蘇るんだから、見る事は出来るんだが……。それでも、俺はニジイロに仲直りする機会は、此処で死んだら絶対に無いと思う。


 サソリに、いいぞ、と首を縦に振る。

 とても、悲しそうな目をしていたんだ。

 未来のニジイロも、今ここで俺を殺そうとしているこのサソリも。

 俺は本当にそれで良いのかと思ったのかもしれない。確かに良い選択とは言えない、逃げれば、サソリを裏切り、追いつかれて死ぬ。そもそも、この足じゃ逃げ動くことも出来ない……か。

 ならば、最良の選択肢は、清々しく殺されるまでだ。

 お互い、大変だな────。


「お前も、ニジイロも俺の命一個分、幸せになれよ!」


 バンダナを付けた青年は、ここで目を瞑り、死を受け入れる。最高の笑顔で死を味わえるのだから、清々しいにも程がある。


 本当に、本当に……。清々しい……!

 しかし、そこで死ぬ者など居てはならないのだ。

 そう、仮に主人公が負けそうになっても。主人公が矛盾していたとしても、そこで主人公を正すのは、きっと必ず……。

 

 "仲間・・"であるはずなのだから。



「本当に、清々しくも無惨な姿ですね! 相棒!」

 

────声が聴こえたんだ。バンダナなんかより可愛くも、凛々しい声が。

 至高の相棒がそこに、仲直りを言わせる機会を迎えに来てくれたんだ。


「……ニジイロ‼」


 救いの神は居るんだな、奇跡のような感覚だった。少なくとも、青年は救われた。彼女と逢えるとは思っていなかった……。

 ならば今度は、と道理が働く。全てを救う事に意義を感じたんだ、それが主人公の本来の使命であると。あの小説には、それが"無かった"。

 だって、善悪関係無しに、全てが救われる事が全てを納得させられる真なる理想なのだから。

 

 状況が変わった。誰もが幸せになれる道が視えそうになっている。ならば、誰が立ち上がるのか。人とは、必ず立ち上がるべき時がある。

 そして、そこで立ち上がらなければ、自分自身に嘘をくことになる。だから────。


 二人共、互いが、互いを理解している。どうやら俺は彼女をどれだけ長く信頼し続けていたのかを忘れていたらしい。


 サソリは、相棒の襲来に、驚きを隠せていない。それでも憎悪は興奮へ、喜びが見えてしまう。どうしてそう面白く、状況が変化していくのか、もしかしたらそれが彼の持ち味なのか。

 サソリには殺気が消えて、純粋な勝負をしたいと思っているように見えるんだ。それは、対に居る人も同じ。この場に立ち会う者は皆、互いが思う言葉を脳内でみ取った。そして、その浮かび上がった、同じ文字を読み上げる。

「「────ならば、純粋な果たし合いと行こうじゃないかっ!」」

「────✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕!」


 青年は立ち上がる。しかし、身体が立ち上がる事を許さない。ニジイロは、後ろを振り返る、そして片手を左右に振る。彼女の手振りだと、無理はするな、と。多分、彼女は俺の状況を察してそう伝えてくれているのだろう。

 これからは私の番だと、サソリに向かって目を配らせる。サソリは理解し、その刃付きの尾っぽを、鞘に納刀された刀の様に、折りたたむ。そして、ニジイロは刀のつばを軽く触れ、そのままなぞるように、納刀された刀を握る。

 互いに立ち合う土俵を揃える為に、互いに納刀された刃を構える。


 朝日は昇り、陽の光を氷粒砂漠にこぼすように。開幕の狼煙は、夜明けを目印に。

 そして、互いの刃は今ここで、────抜刀される。


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