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神様が世界を創り変えたようです。  作者: 詩名時くい
一章
6/9

『氷蠍蹂躙』

────最悪最凶の状況だ。

 奴の攻撃は強すぎる、今更許してもらう雰囲気ではないし、俺もアイツに命乞いをするのは認めたくない。

 氷好きな俺が氷に嫌われてるなんて洒落でも、もう少しマシな冗談あるだろうに……。ニジイロに嫌われているってだけでかなり悪運なんだけどなぁ……。

 そうこうしている間に、強烈な跳躍力でサソリが迫り来る。

 咄嗟に避けるものの、その鋭く固い爪は挟まずとも敵を貫く貫通力、斬り殺す事も可能と出来る殺傷能力。そんな爪が自分の頬を横切った。

 これで命を取られたらと感じて、多少足がすくむ、俺はコイツに逃げられるのだろうかと。 

 痛みが遅れて届く、そして頬から血が流れている事も知る。きっと主人公なら必ず倒せるのだろうが俺はひ弱な一般人だ。自分は物語に憧れた読者の一人でしかないのだから。

 このまま死ぬのも悪くはないと思うようになってしまっていた。必死に逃げても死という概念は付き纏う、吹雪は強いまま、月や星の灯りは失せたまま。時間がいくら進もうが、俺が見ている景色は毎秒同じだ。殺されるまで永久にここから出られる事は無いのだろうかと、そう思うようになった。

 大振りの爪は半円を描いて、自分の右足に攻撃が当たる。

 

「……⁉ ぐぁああああああああ────⁉」


 絶叫する程の痛みが神経を通る。痛みを言葉で表せるのは痛いという言葉のみ、どれだけ言葉を飾ろうと痛いことには変わりないのだから。

 もはや、右足という存在がどうなっているのか分からない。それでもここで生きねばいけない。黄昏たそがれている暇があれば、真っ直ぐ進め、何かに突き当たるまで。

 右足は使い物にならない、自立など出来ていない。左足と両腕を使って、這いつくばりながら進むしかないのだから。

 自分に英雄のような力があれば、あんな奴に負ける事なんてないんだろうけどな……。あれはおとぎ話で本当に力が手に入るなんて事はない。

 俺に使えるのは武器を取り出す一般的な技のみ。

 『武器選択術"七式"』、十四式まである武器選択術のうち七番目に強い武器選択術。七番目だから強いと思えるかもしれない。武器を扱う戦士、特に手数の多い剣士ならばこの技を覚える奴は少なくない、しかし覚える数が少ないことは事実で覚えられる奴はすぐに高みへ、覚えられない奴は一式で手間取るという難易度の高さだ。

 しかし、俺は七式という中途半端なレベルだ。本来この技は、"一か十四"とまで言われる程、極端な技なのだ、覚えられる事は確かに良いが半端者であるのだから上位組には罵られ、下位組には恨まれる始末なんだ俺は。

 一つレベルが上がる度に、選択術の自由度も高まる。

 一式は武器の抜刀が速くなり、二式は武器を二つ以上、手軽に交代出来る、三式は選択術で選んだ武器の威力上昇、四式は武器の抜刀時に威力が向上する、五式は自分の持っている武器なら何時でも自由に出したり消すこと、投影が出来る、六式は自分の持っていない武器でも構造さえ理解出来れば複製可能、七式は投影した武器を他者に渡す事が出来るといった具合だ。

 七式と八式は似ていて、普通なら七式が出来れば八式も出来るはずだが、俺はそれが出来ない。

 八式は他者に武器を直接投影して、渡す手間を省くといったものだ。

 何故出来ないのだろうかと考え続けたが、それも俺が弱いからなんだろうなと一人、納得する。

 こんなサソリに殺されて、第一の生を潰すなんて俺は未熟なんだろうな、きっと。

 怒りに震えたサソリは動くことがままならない俺に対して、トドメを刺そうと尻尾に付いた鎌のような氷の刃を光らせる。

 そして、俺はここで死ぬ、ニジイロを探せず未熟なまま死ぬ。生存権は全て残っている、初めての死が近付く事に恐怖がベタリと纏わりつく。確かに生存権を一回使えばそれで解決かもしれない。でもきっと、ニジイロはそれを許してはくれないだろう。彼女を怒らせた挙句、悲しませるなんて人として最低だ。ああ、ニジイロ……。ニジイロ……。どうしても、彼女が今は恋しいと思った。どうしても彼女の顔しか考えられない。怒る彼女は冗談半分でまだ可愛げがあるものだが、悲しむ彼女はとても儚いと思ったんだ。よくよく考えれば、俺は彼女無しでは今まで冒険なんて出来なかった。今を生きてるのは彼女のお陰なんだ。

 そうだ、"それさえ分かれば、それでいい"。


 俺は死んだ、先程の弱いから弱気のままという間違えた道理で納得していた自分であれば。

 過去の過ちじぶんはこれからサソリの一撃を食らって死ぬだろう

 しかし、今の俺は違う。


「俺はもう一度、ニジイロに会いたい! 会って、きちんと仲直りするんだよ!」


────投影とうえい

 

 突如、投影した刀を見て、サソリは驚く。本来、武器を持たない相手が急に武器を持ち出せば、手品を見ている観客のように奴が目を見開くのは無理もないだろう。この世界では当たり前だろうと慣れない物には驚くのが道理だ。

 右手にしっかりと握ったそれは、無銘の刀であり、俺の愛刀の一つだ。この世界で造られたものの、いつの間にか果てていた刀は万を超える。

 それは過去の歴史を可能な限り創作物、現実の範囲から合算させたからである。進む年月は未だ少ないこの世界だが、何千、何万と歴史のある過去を持つ。

 そして、この果てた刀の名前を……。


「"雪名"……共に行くぞ!」


 果てた刀は亡者と同じ扱いでなくてはならない。鬼哭きこく士魂しこん、想いは共に。

 この刀には、雪のようなものが周りに漂っているように見える。しかしそれは、雪のように見えてしまうだけで、実際に雪が漂う事は無い。

 

 言語理解が出来ているか分からないが、あの氷の塊に言い放つ、あの化け物はやはりギチギチと音を立てて、怒りをあらわにしている。

 互いに理解は出来はしないが、共に負けられないという意地だけは分かり合える。

 それが分かれば、俺もアイツも全力で応えなくてはいけない。

 もはや右足の感覚は痛みのみだが、それは逃げようとした己が悪い。立つことの出来ない右足を片膝立ちで何とか維持する。

怒りをそのままぶつける大きな尻尾の振り下ろし。

 本来であれば死んでしまう一撃。しかし、残念ながら今の俺なら負けられない……!

 左手で氷粒を握り、僅かしかない魔力を籠める。生憎、体力だけじゃなく魔力も最悪値という自分。固有の魔法があるわけでもなく、最強で唯一無二のチート能力を持っている訳ではない。

 そんな自分でも、"対抗策程度は"ある。

 

 籠める魔力は、一瞬の好機を作る"守り"となれ。


「貴様の寒さはお見通しだ!」


 吐き捨てる台詞と共に、自分の握る氷粒を空中にばら撒いた。散りゆく氷は自分の魔力を全て込めた代物しろものだ。それらが互いの魔力を感知しあい、感知した魔力分、氷の粒が堅く補強しあうという防御の魔法。その名も魔防結界シールド・エリア

 空中に張られた結界は、大振りの攻撃を弾く。あのサソリも、今まで攻撃を弾く事が無かった為に衝撃の反動と共に、予想外な動きをしている。

 この隙に、自分は魔力で自分の右足を無理に動かす。全速力で走り、これからこの刀を奴の顔面に突き刺して始末する。それだけを考えて走り寄る。奴の不規則な動きも体勢が立て直る。しかし、これから最後の一撃が通るとは思っていないようで、奴は俺の攻撃を許している。


「これで終われぇえええええええ‼」


全力全霊のトドメを雪名に託し、その攻撃は見事、奴の脳天らしき部位に必中する。

   

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